太陽光発電はなぜ里山を切り開くのか|FIT制度の功罪

住めない街・限界地

山道を車で走っていると、ふいに視界が開けることがあります。

それまで緑一色だった斜面が、突然、黒く光るパネルの群れに変わる瞬間です。木々が根こそぎ切り払われ、むき出しになった地面の上に、整然とパネルが並んでいる光景は、見る人によっては近未来的にも、あるいは痛々しくも映ります。

再生可能エネルギーは、気候変動対策として社会全体が推進してきたはずのものです。それなのに、なぜこれほど多くの山林が切り開かれることになったのでしょうか。

この背景には、一つの制度が大きく関わっています。この記事では、太陽光発電の急速な普及を後押しした「FIT制度」の仕組みと、それが引き起こした光と影について整理します。

ラボ子
再エネって聞くと良いイメージが強いけど、その裏側では結構複雑なことが起きてるんだよね。
制度の仕組みから見ていこう。

FIT制度とは何か

FIT制度は、正式には「固定価格買取制度」と呼ばれ、2012年に導入されました。

太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定期間、固定価格で買い取ることを国が保証する制度です。

この仕組みにより、発電事業者は、将来の収益を高い確度で見通せるようになりました。導入初期の買取価格は、今の水準と比べてかなり高く設定されており、この高い価格が、太陽光発電への投資を一気に加速させることになりました。

個人から大手企業まで、多様なプレイヤーが太陽光発電事業に参入し、全国各地で発電施設の建設ラッシュが起こったのです。

なぜ「里山」が狙われたのか

太陽光発電には、広い面積の土地が必要です。都市部で広大な土地を確保することは難しく、地価も高くつきます。

一方、これまでの記事で見てきたように、地方の山林や耕作放棄地には、活用されないまま放置されている土地が数多く存在していました。

所有者にとっても、固定資産税を払い続けるだけだった土地が、発電事業者への賃貸によって安定した収入源に変わる。この構図は、双方にとって経済的な合理性がありました。

結果として、これまで負動産として扱われてきた土地の一部が、太陽光発電用地として、次々と開発の対象になっていったのです。

耕作放棄地や、日照条件の良い南向きの斜面などは、発電事業者にとって特に魅力的な土地として扱われました。使い道のなかった土地に新たな価値が見出されたこと自体は、皮肉にも、これまでのシリーズで扱ってきた負動産問題への、一つの解決策になり得るものでした。

業界の裏側

前回の記事で扱った負動産の一部が、太陽光発電用地として活路を見出したこと自体は、土地活用の観点からは前向きな動きとも言えます。
問題は、その開発が急速に進みすぎたことで、環境面への配慮が後回しになったケースが少なくなかった点です。

森林伐採がもたらすリスク

山の斜面から木々を伐採してパネルを設置することには、見た目以上に大きなリスクが伴います。

森林は、木の根が土壌をしっかりと保持し、雨水を吸収・保水する役割を果たしています。この森林が失われると、大雨の際に土砂が一気に流れ出しやすくなり、土砂崩れのリスクが高まります。

パネルの設置によって地面がコンクリートやアスファルトのように固められることは少ないものの、傾斜地の造成そのものが、地盤を不安定にする要因になり得ます。

また、大規模なパネル群による景観の変化も、地域住民にとって受け入れがたいものになることがあります。生態系への影響、反射光による近隣への影響なども、各地で懸念の声が上がってきました。

特に懸念されているのが、急傾斜地における造成です。傾斜のきつい土地は、そもそも農業や宅地利用には適さず、これまで手つかずのまま残されてきました。しかし太陽光発電の場合、平坦な土地である必要はなく、傾斜地でも設置が可能です。

この「これまで開発対象にならなかった土地」までもが開発の対象になったことが、災害リスクの観点から特に問題視されています。

営業マン視点

太陽光発電施設の近くの土地を検討する際は、施設そのものの是非だけでなく、造成によって周辺の地盤や水はけがどう変化したかまで、確認しておくことをおすすめします。
見た目には分からない変化が、後々の生活に影響することがあります。

買取価格の低下と、今も残る課題

制度開始から年数が経つにつれ、買取価格は段階的に引き下げられてきました。

これにより、新規の大規模開発のペースは、初期に比べると落ち着いてきています。しかし、すでに開発され、伐採された山林が元の状態に戻るわけではありません。

また、発電事業の採算性が悪化した場合、事業者が撤退し、パネルが放置されたまま老朽化していくという、新たな「負動産化」のリスクも指摘されています。

使用済みとなった太陽光パネルの廃棄・リサイクルの体制整備も、社会全体としてまだ発展途上の段階にあります。設置時の環境負荷だけでなく、撤去時の環境負荷まで見据えた制度設計が、今後さらに求められることになるでしょう。

ラボ子
良かれと思って作った制度が、思わぬ副作用を生んでしまうこともあるんだよね。
次は、実際に住民が声を上げた伊豆高原の訴訟事例を見ていこう。

まとめ:FIT制度の功と罪

側面 内容
功(プラス面) 再エネ普及の加速、負動産の活用先の創出、土地所有者の収入源確保
罪(マイナス面) 森林伐採による土砂災害リスク、景観破壊、生態系への影響
今後の課題 事業撤退後の設備放置、新たな負動産化のリスク
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宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
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