実家に帰省するたび、少しずつ変わっていく町並みに気づくことがあります。
子どもの頃、友達の家族が暮らしていたあの一軒。数年前までは庭の手入れも行き届いていたのに、いつの間にか雨戸が閉め切られ、玄関には郵便物がはみ出しています。
気づけば、同じ通りに、似たような表情の家が何軒も並んでいる。誰も悪いことをしたわけではないのに、町全体が少しずつ、静かに空洞化していく感覚。
この感覚は、決して個人の思い込みではありません。総務省統計局が実施する「住宅・土地統計調査」は、この静かな変化を、数字としてはっきりと裏付けています。
全国の空き家数は、調査のたびに過去最多を更新し続け、現在ではおよそ900万戸にのぼるとされています。この記事では、この巨大な数字の中身を、種類ごとに丁寧に読み解いていきます。
その内訳を、一緒に見ていこう。
5年ごとの全国調査
この空き家統計のもとになっているのは、総務省統計局が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」です。
全国の住宅とそこに住む世帯を対象にした大規模な標本調査で、日本の住宅事情を把握するための最も基礎的な統計として、長年にわたり実施されてきました。
この調査によって算出される空き家数と空き家率は、5年ごとに更新されるたびに、そのつど「過去最多」の見出しとともに報道されてきました。増加のペースは緩やかになっている時期もありますが、減少に転じたことは一度もありません。
この背景には、日本全体の人口減少と世帯数の変化があります。人口が減る一方で、単身世帯の増加などにより世帯数そのものは緩やかに増え続けてきたため、住宅の総数自体は増加を続けてきました。
しかし、世帯数の増加ペースを、住宅供給のペースが上回り続けている状態が長年続いており、この需給のギャップが、空き家数を押し上げる構造的な要因になっています。
「空き家」は一種類ではない
ここで重要なのは、「空き家900万戸」という数字が、単一の問題を示しているわけではないという点です。
統計上、空き家は大きく4つの種類に分類されています。
一つ目は「賃貸用の住宅」です。次の入居者を募集している最中の、いわば通常の流通過程にある空き家です。
二つ目は「売却用の住宅」です。売却先を探している最中の物件で、これも市場に出回っている正常な状態と言えます。
三つ目は「二次的住宅」です。別荘や、週末だけ利用するセカンドハウスなど、日常的な居住はしていないものの、明確な用途を持って保有されている住宅です。
そして四つ目が「その他の住宅」です。これが、社会問題として語られる「空き家問題」の中心にある分類です。
業界の裏側
賃貸用・売却用の空き家は、市場に出ている「流通在庫」として捉えることができます。
一定数の空き家が存在すること自体は、健全な不動産市場が機能している証でもあるのです。
問題視すべきなのは、市場に出てすらいない「その他の住宅」のボリュームです。
本当の問題は「その他の住宅」
「その他の住宅」は、賃貸にも売却にも出されておらず、別荘のような明確な用途も持たない住宅を指します。
具体的には、相続したものの活用方法が決まらないまま放置されている実家、転勤や施設入所によって長期間留守にしている住宅、所有者がすでに他界し相続手続きが進んでいない住宅などが、この分類に含まれます。
この「その他の住宅」は、空き家全体のうち、およそ4割前後を占めるとされており、件数にして数百万戸規模にのぼります。
市場に出回らないまま放置されるこれらの住宅は、老朽化が進んでも修繕されず、倒壊や火災、景観の悪化、治安の低下といった、周辺住民にとって具体的なリスクを生み出す原因になっています。
また、こうした住宅は固定資産税の課税対象であり続けるため、所有者にとっても、活用しないまま税負担だけが続くという、経済的にも望ましくない状態が長期化しがちです。
「そのうち何とかしよう」と先送りにしているうちに、建物の状態はさらに悪化し、いざ売却や解体をしようとしても、想定以上の費用がかかってしまうというケースも少なくありません。
営業マン視点
相続の相談を受けていると、「実家をどうすればいいか分からず、とりあえずそのままにしている」というケースが本当に多いです。
悪気があって放置しているわけではなく、決断する優先順位が下がっているだけ、というのが実情だと感じます。
だからこそ、早い段階での情報収集が重要になります。
空き家率にも地域差がある
空き家率、つまり全住宅に占める空き家の割合も、地域によって大きな差があります。
別荘地として知られるエリアでは、二次的住宅としての空き家が多く計上される傾向があり、これは前回・前々回で扱った過疎地域の「その他の住宅」の問題とは、性質が異なります。
一方、都市部近郊のベッドタウンでは、高度経済成長期に大量供給された住宅の世代交代が進まず、「その他の住宅」化するケースが増加しています。空き家問題は、もはや地方だけの現象ではなくなりつつあるのです。
特に、1970年代から80年代にかけて造成された大規模な住宅団地では、当時の入居世代がそろって高齢化し、その子ども世代は別の場所に生活の拠点を築いているケースが目立ちます。
「実家は都市近郊にあるから安心」という考え方も、今や当てはまらなくなりつつあることを、この統計は示しています。
次は、この「その他の空き家」に絞って、もっと深く見ていこう。
まとめ:空き家の4分類
| 分類 | 内容 | 問題性 |
|---|---|---|
| 賃貸用の住宅 | 入居者募集中の物件 | 市場流通の一部、健全な在庫 |
| 売却用の住宅 | 売却先を探している物件 | 市場流通の一部、健全な在庫 |
| 二次的住宅 | 別荘等、明確な用途がある物件 | 用途が明確、問題性は低い |
| その他の住宅 | 相続放置・長期不在等、用途不明の物件 | 倒壊・防犯・景観等のリスクの中心 |
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