前回の記事で、空き家900万戸のうち、本当に問題視すべきは「その他の住宅」という分類だとお伝えしました。
この言葉を初めて聞いたとき、多くの人は「その他」という響きの曖昧さに、少し戸惑うかもしれません。賃貸でも、売却でも、別荘でもない。では、いったい何のための家なのか。
実は、この問いに対する答えは、驚くほどシンプルです。「特に何のためでもない」というのが、多くの「その他の住宅」の実態なのです。
誰かの持ち物ではあるけれど、誰も積極的に管理しておらず、誰も次の一手を決めていない。そんな宙ぶらりんの状態のまま、時間だけが過ぎていく家。これが「その他の住宅」、いわゆる「その他空き家」の姿です。
この記事では、なぜこうした家がこれほど増えてしまうのか、その構造的な理由と、放置がもたらす具体的なリスクを掘り下げていきます。
むしろ、なぜ増えてしまうのか、その仕組みを知ることが大事なんだ。
「その他空き家」が生まれる4つのパターン
実務の現場で相談を受けていると、その他空き家が生まれる経緯には、いくつかの典型的なパターンがあることが見えてきます。
一つ目は「相続放置型」です。親が亡くなり実家を相続したものの、遠方に住んでいる、あるいは思い入れがあって処分に踏み切れないなどの理由で、そのまま放置されるケースです。
二つ目は「長期不在型」です。転勤や施設への入所により、所有者自身が長期間その家を離れているケースです。いずれ戻るつもりが、結果として何年も空き家のままになることがあります。
三つ目は「検討先送り型」です。売却や解体、リフォームといった選択肢は分かっているものの、どれを選ぶべきか決めきれず、検討自体が先送りされ続けているケースです。
四つ目は「解体費用回避型」です。古い家を解体するには、まとまった費用がかかります。この費用負担を避けたいという心理が、建物をそのまま残す選択につながっています。
実際には、これら4つのパターンが単独で存在するのではなく、複合的に絡み合っていることがほとんどです。相続で受け継いだものの遠方に住んでいて、解体費用も気になり、結局どうすべきか決めきれないまま数年が経過する、というのが典型的な経過です。
この「決めきれなさ」こそが、その他空き家の本質的な特徴だと言えるかもしれません。誰か一人が明確な意思を持って「放置しよう」と決めたわけではなく、判断の先送りが積み重なった結果として、空き家化が進んでいくのです。
放置を後押しする、税制上の「歪んだインセンティブ」
四つ目の「解体費用回避型」の背景には、実はもう一つ、構造的な要因が隠れています。それが、固定資産税における「住宅用地特例」です。
この特例により、建物が建っている土地は、固定資産税の課税標準額が大幅に軽減されます。具体的には、住宅用地の面積に応じて、課税標準が最大で6分の1にまで軽減される仕組みです。
つまり、老朽化した空き家であっても、建物を解体せずそのまま残しておいた方が、更地にするよりも固定資産税が安く済むのです。
この税制は、本来、住宅を確保しようとする人の負担を軽減するために設けられた制度です。しかし結果として、「使っていない家でも、解体せず放置した方が経済的に得」という、皮肉な誘因を生み出してしまっています。
解体費用が数十万円から百万円単位でかかる一方、固定資産税の軽減効果は毎年発生し続けます。この目先の損得勘定が、長期的に見れば地域全体にとって不利益となる選択を、個々の所有者にとっては合理的に見せてしまうのです。
これは、個々の所有者を責めるべき問題ではなく、制度設計そのものが抱える構造的な矛盾だと理解しておく必要があります。
業界の裏側
この住宅用地特例の存在は、空き家問題を語るうえで欠かせないポイントですが、意外と知られていません。
「なぜ壊れかけの家がそのまま残っているのか」という素朴な疑問の答えの一つが、実はここにあります。
次の記事で扱う改正空家法は、この歪んだインセンティブに対応するための制度改正でもあります。
放置がもたらす4つのリスク
管理されないまま放置された空き家は、時間の経過とともに、周辺にさまざまなリスクをもたらします。
一つ目は、物理的な倒壊リスクです。屋根や外壁の劣化が進むと、台風や地震の際に倒壊し、隣家や通行人に被害を及ぼす危険性が高まります。
二つ目は、防犯上のリスクです。人の出入りがない家屋は、不法侵入や放火の対象になりやすく、地域の治安悪化につながることがあります。
三つ目は、衛生・害獣のリスクです。庭木や雑草が伸び放題になった敷地は、ネズミやハクビシンといった害獣、あるいは害虫の温床になります。
四つ目は、景観と地域イメージへの影響です。一軒の空き家の存在が、周辺の不動産価値や、地域全体の印象にまで影響を及ぼすことがあります。
これらのリスクは、時間が経つほど深刻化していく性質を持っています。発見が早ければ簡単な補修で済んだはずの劣化も、数年単位で放置されれば、大規模な修繕や解体が必要な状態にまで進行してしまいます。
つまり、空き家問題は「先送りにすればするほど、解決コストが膨らんでいく」という、時間との戦いでもあるのです。
営業マン視点
実際に、隣の空き家が原因で越境してきた木の枝や、庭から侵入してきた害獣に悩まされているという相談を受けることがあります。
所有者本人が遠方に住んでいて連絡が取りづらく、対応に長い時間がかかるケースも珍しくありません。
この近隣トラブルとしての側面は、⑤トラブルの現場のカテゴリでも改めて詳しく扱う予定です。
「放置」は誰にとっても得ではない
ここまで見てきたように、その他空き家の放置は、所有者本人にとっても、近隣住民にとっても、地域社会全体にとっても、望ましい状態とは言えません。
それでも放置が続いてしまうのは、悪意や無責任さというよりも、「決断のハードルの高さ」と「先延ばしにするインセンティブ」が組み合わさった結果だと言えます。
所有者本人にとっては、いずれ資産価値がゼロ、あるいはマイナスになりかねない負担を抱え続けることになります。近隣住民にとっては、生活の安全や資産価値への不安が続きます。そして自治体にとっては、限られた予算の中で対応を迫られる案件が積み上がっていきます。
この構造を変えるために、国は法制度の面からも対応を進めてきました。次の記事では、その具体的な取り組みである改正空家法について見ていきます。
次は、その状況を変えようとしている法律の話を見ていこう。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生パターン | 相続放置型/長期不在型/検討先送り型/解体費用回避型 |
| 放置を後押しする要因 | 住宅用地特例による固定資産税の軽減 |
| 主なリスク | 倒壊・防犯・衛生害獣・景観地域イメージへの悪影響 |
| 今後の対応 | 改正空家法による管理不全空家の新区分(次記事で解説) |
関連記事|住めない街・限界地を掘り下げる
この話には、まだ続きがあります。
絶望不動産|土地神話・情報格差・制度の遅れが生んだ闇
限界集落や空き家問題だけではありません。
不動産の世界には、同じ構造から生まれる“見えないリスク”がいくつも存在します。
土地神話、情報格差、そして制度の遅れ──。
実際に起きた事件をもとに、その正体を体系的にまとめています。
宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。

コメント