人に貸している不動産は、自分で使っている不動産よりも、相続税の評価額が低くなります。
借りている人の権利があるぶん、所有者が自由に使えない——その制約を、評価に反映させるからです。
アパート経営をしている、土地を人に貸している、といった場合に関わってくる、重要なポイントです。
うまく使えば、相続税を抑える効果があります。
ただし、「空室」によって効果が薄れる落とし穴もあります。
この記事では、貸家・貸地の評価減の仕組みと、注意点を解説します。

なぜ貸すと評価が下がるのか
不動産を人に貸すと、なぜ評価が下がるのでしょうか。
理由は、貸している相手に「借りる権利」があるためです。
人に貸している土地や建物は、借りている人がいる以上、所有者が自由に使ったり、出ていってもらったりすることができません。
この「自由に使えない」という制約は、その不動産の価値を下げる要素になります。
相続税の評価でも、その制約のぶんだけ、評価額を低くする扱いになっているのです。
貸し方によって、評価の下がり方は3つのパターンに分かれます。
| 種類 | どんな不動産か |
|---|---|
| 貸家建付地 | 自分の土地にアパート等を建てて人に貸している |
| 貸宅地 | 土地を人に貸し、その人が建物を建てている |
| 貸家 | 建物そのものを人に貸している |
①貸家建付地——自分の土地に貸家を建てた
自分の土地にアパートやマンションを建てて人に貸している場合、その土地は「貸家建付地」として評価されます。
自分で使う土地よりも、評価が下がります。
具体的には、自分で使う場合の評価額から、「借地権割合×借家権割合×賃貸割合」に相当する分を差し引きます。
借地権割合は地域ごとに定められ、路線価図にアルファベットで表示されています。
借家権割合は、全国一律で3割(30%)です。
賃貸割合は、実際に貸している部分の割合を指します。
たとえば、満室で借地権割合が7割の土地なら、おおむね2割ほど評価が下がる計算になり、減額の効果は小さくありません。
②貸宅地——他人に土地を貸している
自分の土地を他人に貸し、その人が上に建物を建てている場合、その土地は「貸宅地」として評価されます。
この場合、借りている人には「借地権」という強い権利があり、所有者は土地を自由に使えません。
そのため、自分で使う場合の評価額から、借地権割合に相当する分を差し引いて評価します。
借地権割合が7割の地域であれば、土地の評価額は本来の3割程度にまで下がることになります。
減額の幅は、3つのパターンの中でもとくに大きくなります。
逆に言えば、その差し引かれた借地権の部分は、土地を借りている人の側の相続財産になる、という関係です。
③貸家——建物を貸している
土地だけでなく、人に貸している建物も評価が下がります。
賃貸している建物は「貸家」として、固定資産税評価額から、借家権割合(30%)に賃貸割合をかけた分を差し引いて評価します。
つまり、満室の貸家であれば、自分で使う建物の評価額の7割程度になるということです。
このように、土地も建物も、人に貸していると評価が下がります。
そのため、賃貸経営は、相続税の面では有利に働きます。
ただし、評価が下がるからといって、安易に賃貸を始めると、空室や修繕のリスクを抱えることにもなります。
その点は、相続した不動産の活用を扱うテーマで、詳しく見ていきます。
【業界の裏側】 「アパートだから評価が下がる」と思ったら、空室だらけだった話
親御さんが営んでいたアパートを相続されたお客様のお話です。お客様は、「アパートは貸家建付地で評価が下がると聞いたから、相続税はかなり抑えられるはず」と期待しておられました。考え方は、正しいものです。ところが、いざ相続が始まった時点で、そのアパートの入居状況を確認すると、全10室のうち、半分の5室が空室になっていました。ここに、見落とされがちな落とし穴があります。評価減に関わる「賃貸割合」は、実際に貸している部分の割合です。半分が空室なら、賃貸割合は5割。空室の部分は評価減の対象から外れ、自分で使っている不動産と同じ扱いになります。そのため、お客様が期待していたほどには、評価が下がりませんでした。「満室のつもりで計算していたのに」と、お客様は肩を落とされていました。貸している不動産の評価減は、相続が始まった「その時点」の入居状況で決まります。日ごろから空室を埋めておくことが、評価の面でも効いてくる——賃貸物件の相続では、ここが意外な分かれ目になるのです。
「賃貸割合」と空室の関係——ここが落とし穴
貸している不動産の評価減には、「賃貸割合」が深く関わってきます。
賃貸割合とは、その建物のうち、実際に貸している部分の割合のことです。
たとえば、10部屋のアパートで2部屋が空室なら、賃貸割合は8割になります。
ここで注意したいのが、空室の部分は評価減の対象から外れ、自分で使っている土地・建物と同じ扱いになる、という点です。
つまり、空室が多いほど、評価減の効果は小さくなります。
相続が始まった時点で、たまたま空室が多いと、思ったほど評価が下がらないこともあります。
ただし、一時的な空室で、すぐに次の入居者を募集しているような場合は、貸している扱いが認められることもあります。
賃貸物件の評価では、相続開始時点の入居状況が結果を左右する、ということを覚えておきましょう。

【営業マン視点】 「評価が下がるから」だけで、アパートを建ててはいけない
「土地に賃貸住宅を建てると相続税の評価が下がる」——この話は本当です。実際、相続税対策としてアパートやマンションの建築をすすめられた、というお客様にもよくお会いします。ただ、現場の立場から、強くお伝えしたいことがあります。それは、「評価が下がるから」という一点だけで、賃貸経営を始めてはいけない、ということです。たしかに、空き地のまま持つより、賃貸住宅を建てたほうが、相続税の評価額は下がります。しかし、賃貸経営には、別の現実が待っています。多額の借金をして建てれば、その返済が始まります。入居者が集まらなければ空室が増え、家賃収入は計画どおりに入りません。建物は古くなれば修繕費がかさみます。そして、先ほど見たように、空室が増えれば、肝心の評価減の効果も薄れていきます。相続税が多少下がっても、賃貸経営そのもので赤字を抱えてしまっては、本末転倒です。私がお客様にお伝えしているのは、「賃貸経営は、節税の手段である前に、1つの事業だ」ということです。その土地で本当に人が借りてくれるのか、長く経営を続けられるのか。節税効果だけでなく、事業としての採算を冷静に見極めてから判断することが、何より大切なのです。
まとめ——貸すと評価は下がるが「空室」と「採算」に注意
| この記事のポイント |
|---|
| 人に貸す不動産は、自由に使えない制約があるぶん評価が下がる |
| 貸家建付地・貸宅地・貸家の3パターン。借地権割合・借家権割合(30%)が関わる |
| 貸宅地は減額が大きく、借地権割合7割なら本来の3割程度まで下がる |
| 評価減は「賃貸割合」で決まる。空室が多いほど効果は小さくなる |
| 節税だけで賃貸を始めない。事業としての採算を冷静に見極める |

宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。


コメント