静岡県伊東市、伊豆高原。別荘地と観光地が広がり、豊かな自然に恵まれたこのエリアで、2017年頃、一つの大規模な開発計画が持ち上がりました。
計画地は八幡野地区の山林、およそ100ヘクタール。東京ドーム数十個分に相当する森林を切り開き、太陽光パネル約1万枚、出力およそ40メガワットという、国内でも屈指の規模のメガソーラーを建設するという内容でした。
前回の記事で見た「FIT制度がもたらした光と影」は、この伊豆高原で、極めて具体的な形をとることになります。住民たちは、土砂災害や景観破壊、漁業への影響を懸念し、行政と事業者を相手に、長期にわたる闘いを繰り広げました。
この記事では、伊豆高原メガソーラー問題がどのように展開してきたのか、その経緯を追っていきます。
経緯を順番に見ていこう。
計画の発覚と広がる反対運動
この計画を進めていたのは、韓国のハンファグループの子会社と、再生可能エネルギー設備商社の出資を受けた合同会社です。
計画が明らかになると、住民の間に不安が急速に広がりました。土砂災害への懸念、景観の悪化、そして漁業やダイビング事業への影響。地元の住民や事業者が中心となり、署名活動や勉強会を通じた反対運動が展開されていきます。
2017年の伊東市長選挙では、「住民同意が得られないのであれば反対」を公約に掲げた候補が初当選しました。翌2019年6月には、市議会が全会一致でメガソーラー建設反対の決議を可決しています。
一つの開発計画をめぐって、選挙の争点になり、議会が全会一致で反対の意思を示す。ここまで地域政治を動かした事例は、全国的に見ても珍しいものでした。それだけ、住民にとって切実な問題だったということでもあります。
伊豆高原は別荘地・観光地としての性格が強いエリアでもあり、景観や自然環境の保全が、地域の経済そのものと直結しているという事情も、反対運動の広がりを後押しした要因の一つだったと考えられます。
行政不許可と、事業者による提訴
伊東市は2019年2月、事業に関わる河川の占用について、不許可処分としました。「現時点では社会経済上必要やむを得ないと認められるに至らない」というのが、その理由でした。
これを不服とした事業者は、市の処分取り消しを求めて、逆に伊東市を提訴します。行政の不許可判断そのものが、司法の場で争われることになったのです。
これと並行して、住民側も動きました。地元で漁業やスキューバダイビング事業を営む有志らが、静岡地方裁判所沼津支部に、建設差止めを求める仮処分を申し立てています。漁業権や営業権の侵害を理由とした申立てでした。
業界の裏側
この問題の構図が複雑なのは、「事業者 対 住民」だけでなく、「事業者 対 行政」という訴訟が並行して進んだ点です。
自治体が独自に不許可判断を下し、その正当性そのものが裁判で争われるという展開は、他の地域での開発トラブルにも共通して起こりうる構図です。
控訴審判決と「実質勝訴」
2021年4月、この訴訟の控訴審判決が東京高等裁判所で言い渡されました。
判決の内容は、手続き上の不備を理由に不許可処分の取り消しが相当とする一方で、市長の裁量権の乱用については否定するという、双方の主張それぞれに一定の理を認める内容でした。
伊東市長は判決を受けた会見で「実質的な勝訴」と述べ、上告しない方針を示しました。処分そのものは取り消されたものの、市の判断の裁量そのものは否定されなかったことを、前向きに評価する姿勢を見せたのです。
この判決以降も、建設をめぐる本体工事は事実上停止した状態が続いているとされ、事業者と市との間の法的な係争は、その後も続いていると伝えられています。
この一連の経緯は、開発計画そのものが完全に白紙撤回されたわけではなく、行政の一つの処分をめぐる判断が確定した、という段階にとどまっている点も、正確に理解しておく必要があります。
大規模な開発案件では、一つの訴訟の決着がそのまま計画全体の終結を意味するとは限らず、複数の許認可や係争が並行して積み重なっていくことが少なくありません。伊豆高原のケースも、その典型例だと言えるでしょう。
営業マン視点
この事例で印象的なのは、住民運動が署名活動や勉強会といった地道な積み重ねから始まり、最終的に市長選挙の公約、市議会決議、そして裁判にまで発展していったプロセスです。
不動産開発をめぐる住民の声は、こうした段階を経て、実際の力を持ちうることを示す事例だと感じます。
なお、この問題をめぐる状況は今なお動いており、事業の主体や係争の状況について、その後さらに変化があった可能性があります。最新の状況については、地元自治体や報道機関の発表を確認することをおすすめします。
次は、実際に自分の近くにメガソーラーができるとなったとき、何を確認すべきかを見ていこう。
まとめ
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2017年 | 大規模太陽光発電計画が発覚、住民同意なければ反対を掲げる市長が当選 |
| 2018〜19年 | 反対運動の拡大、市議会が反対決議を全会一致で可決 |
| 2019年2月 | 市が河川占用を不許可、事業者が処分取消しを求め提訴 |
| 2019年3月 | 漁業者・ダイビング事業者らが建設差止めの仮処分を申立て |
| 2021年4月 | 東京高裁が控訴審判決、市長「実質勝訴」として上告せず |
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