「無料で譲ります」という言葉を、不動産の広告で見かけたことはないでしょうか。
あるいは、「タダでもいいから引き取ってほしい」と、切実な思いで相談に来られる方に、これまで何人もお会いしてきました。
不動産は資産だ、という前提で育ってきた世代にとって、この状況はにわかには信じがたいものかもしれません。土地や建物は、お金を払ってでも欲しがられるもののはずです。それが今、お金を払ってでも手放したいものになっている。
この逆転現象を指して、近年「負動産」という言葉が使われるようになりました。資産のはずの不動産が、実質的に負債となってしまう状態です。
この記事では、なぜ不動産の価値がマイナスになってしまうのか、その構造と、現実的な向き合い方を整理します。
「負動産」って言葉が生まれた背景を見ていこう。
「負動産」が生まれる仕組み
不動産の価値がマイナスになるとは、どういうことでしょうか。
これは単純な引き算で理解できます。その不動産を持ち続けるためにかかる費用が、売却できたとして得られる金額を上回ってしまう状態です。
保有し続ければ、毎年の固定資産税がかかります。空き家であれば、除草や雪下ろしといった管理費用もかかります。将来、老朽化が進めば、いずれ解体費用も発生します。
一方で、買い手がほとんどいない立地であれば、売却によって得られる金額はゼロに近く、時には仲介手数料や測量費用の方が高くつくケースすらあります。
この「持ち続けるコスト」が「売却して得られる価値」を上回った瞬間、その不動産は資産ではなく、負債としての性格を帯びることになります。
特に問題になりやすいのは、山林や、道路に接していない土地です。こうした土地は、そもそも建物を建てることができない、あるいは活用の選択肢が極めて限られるため、需要がほとんど存在しません。
都市部で「土地は価値がある」という感覚のまま相続に臨むと、こうした土地の現実にギャップを感じることになります。
業界の裏側
①事件・詐欺のシリーズで扱った原野商法の被害地も、まさにこの負動産の典型例です。
数十年前に「将来値上がりする」と信じて購入された土地の多くが、今では買い手のつかない負動産として、所有者の手元に残り続けています。
土地神話の後遺症は、こういう形で今も続いているのです。
「寄付すればいい」が通用しない理由
負動産化した土地について、「自治体に寄付すればいいのでは」と考える方もいらっしゃいます。
しかし実際には、多くの自治体が、こうした土地の寄付を受け付けていません。理由は単純で、自治体にとってもその土地は、管理コストがかかるだけの負動産だからです。行政も、無条件に負債を引き受けるわけにはいかないのです。
公共事業に活用できる、あるいは特別な事情がある場合に限り、寄付が受理されることはありますが、それはあくまで例外的なケースです。
新しい選択肢「相続土地国庫帰属制度」
こうした状況を受け、2023年4月から「相続土地国庫帰属制度」という新しい制度が始まりました。
これは、相続によって取得した土地を、一定の条件を満たせば、国に引き取ってもらえる制度です。
ただし、条件はかなり厳しく設定されています。建物が建っていないこと、土壌汚染がないこと、境界が明確であること、担保権が設定されていないことなど、多くの要件をクリアする必要があります。
建物付きの空き家の場合は、まず解体して更地にしなければ、この制度の対象になりません。加えて、審査手数料や、10年分の土地管理費用相当額として、一定の負担金を納める必要もあります。
つまり、この制度も「無料で手放せる」というものではなく、それなりの費用と手間を伴う選択肢だということは、理解しておく必要があります。
それでも、これまで「手放したくても手放す手段がない」という状況が長く続いていたことを考えれば、この制度の創設は、確実に一つの前進だと言えます。
制度の利用を検討する際は、法務局に事前相談の窓口が設けられているため、まずはそこで、自分の土地が要件を満たしそうかどうかを確認してみることをおすすめします。
営業マン視点
「タダでもいいから手放したい」という相談を受けたとき、まずお伝えするのは、負動産の処分にも一定の費用がかかるという現実です。
費用をかけてでも手放すべきか、それとも持ち続けるべきか。この判断は、感情論だけでなく、長期的な収支のシミュレーションをもとに考えることをおすすめしています。
空き家バンクという選択肢
もう一つの選択肢が、自治体が運営する「空き家バンク」への登録です。
これは、空き家を売りたい・貸したい所有者と、地方移住や田舎暮らしを希望する人とをマッチングする仕組みです。市場価格ではほとんど値がつかない物件でも、移住希望者にとっては十分魅力的な選択肢になることがあります。
すべての負動産がこの方法で解決するわけではありませんが、選択肢の一つとして、検討する価値は十分にあります。
次は、視点を変えて、この空き家問題の裏側にある太陽光発電の乱開発について見ていこう。
まとめ
| 選択肢 | 特徴 |
|---|---|
| 自治体への寄付 | 多くの場合、受理されない |
| 相続土地国庫帰属制度 | 建物解体・境界確定等の条件、負担金が必要 |
| 空き家バンク登録 | 移住希望者とのマッチングで活路が開けることも |
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この話には、まだ続きがあります。
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限界集落や空き家問題だけではありません。
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土地神話、情報格差、そして制度の遅れ──。
実際に起きた事件をもとに、その正体を体系的にまとめています。
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