売る・貸す・住む・持ち続ける——どの選択肢を選ぶにせよ、判断の土台になるものがあります。
それが「保有コストの試算」です。
その不動産を持ち続けたら、1年間でいくらかかるのか。
この数字を知らないまま「とりあえず持っておく」を選ぶのは、とても危険です。
使わない不動産は、持つほどにコストがかさみ、資産は静かに目減りしていきます。
この記事では、保有コストの試算のしかたと、後悔しない決め方を解説します。

保有にかかるコストを洗い出す
不動産を持ち続けるには、さまざまなコストがかかります。
まずは、その全体像を洗い出しましょう。
| コスト | 内容 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 毎年かかる。使っていなくても課税される |
| 火災保険料 | 建物にかける保険の費用 |
| 修繕費 | 傷みを防ぐための費用 |
| 管理の手間・交通費 | 草刈り・見回り・換気(遠方なら交通費と時間も) |
毎年の固定資産税と都市計画税、建物の火災保険料、そして傷みを防ぐための修繕費。
庭の草刈りや、定期的な見回り・換気といった管理の手間も必要で、遠方の物件なら、そのたびに交通費や時間もかかります。
これらが年間でいくらになるか、一度きちんと積み上げてみることが大切です。
「たいしたことはないだろう」と感覚で済ませず、具体的な金額として把握することで、保有という選択の重みが見えてきます。
使わない不動産は、持つほど目減りする
収益を生まない不動産を持ち続けることは、コストを払い続けながら、資産が静かに目減りしていくことを意味します。
建物は、使わなければ傷み、価値は下がっていきます。
空き家として放置すれば、特定空家に指定されて固定資産税の優遇が外れるなど、負担がさらに増すおそれもあります。
「いつか使うかもしれない」と漠然と持ち続けるうちに、売るに売れない負動産になってしまう——これは避けたい結末です。
使う当てのない不動産は、早めに手放すことも、立派な選択肢です。
「持ち続ける」ことは、必ずしも安全な道ではないのです。
数字で比べて、期限内に決める
後悔しない決め方の基本は、感情だけで決めず、数字で比べることです。
3つの選択肢を、それぞれ「見るべき数字」で並べてみましょう。
| 選択肢 | 見るべき数字 |
|---|---|
| 売る | 手元に残る金額(手残り) |
| 貸す | 見込める収益(家賃−経費) |
| 持ち続ける | かかる保有コスト(年間×年数) |
売却した場合に手元に残る金額、賃貸に出した場合に見込める収益、そして持ち続けた場合にかかる保有コスト。
これらを並べて比較すれば、どの選択が経済的に合理的かが見えてきます。
そのうえで、思い出や家族の意向といった、数字に表れない要素も加味して、総合的に判断します。
そして何より、取得費加算や空き家の特別控除といった特例の期限を意識し、先送りせずに期限内で結論を出すこと。
これが、損をせず、後悔も残さない決め方です。
【業界の裏側】 「たいした額じゃない」が、10年で積み上げると…という話
相続した実家をどうするか、長く迷っておられたお客様がいました。「売るのは寂しいし、固定資産税もたいした額じゃないから、当分このまま持っておこうと思うんです」とおっしゃっていました。私は、「一度、持ち続けた場合にかかる費用を、全部積み上げてみませんか」とご提案しました。そして、一緒に数字を出していきました。毎年の固定資産税と都市計画税。建物にかける火災保険料。傷みを防ぐための、数年に一度の修繕費。遠方だったため、年に数回、様子を見に行く交通費。庭の草刈りを業者に頼む費用。これらを1年分にまとめ、さらに10年持ち続けたらいくらになるかを計算しました。出てきた金額を見て、お客様は絶句されました。「1年ずつだと気にならなかったのに、10年で見ると、こんなに出ていくのか」と。感覚では「たいした額じゃない」と思っていた保有コストが、積み上げると、決して無視できない金額になっていたのです。この数字を見て、お客様は「これだけかけて持ち続けるより、早めに売ろう」と、ようやく決断されました。保有コストは、1年ずつだと軽く見えます。しかし、まとめて数字にすると、その重みがはっきり見える。「感覚」を「数字」に変えることが、迷いを断ち切る何よりの後押しになるのです。
「決めない」という先送りの代償
相続した不動産をどうするか、その判断に、唯一の正解はありません。
物件の立地や状態、家族の状況によって、最善の選択は変わります。
ただ、1つだけはっきり言えるのは、「決めないまま先送りにすること」が、多くの場合、最も損をするということです。
先送りにしている間も、保有コストは出ていき、建物は傷み、資産価値は下がっていきます。
そして、売却時の税の特例は、相続から3年程度で期限を迎えます。
決めずにいるうちに、使えたはずの特例まで失ってしまうのです。
結論を焦る必要はありません。
しかし、検討だけは早く始め、期限を意識して決断する。
それが、後悔を残さないための、いちばんの心構えです。

【営業マン視点】 「手放す」ことは、親不孝でも失敗でもない
相続した実家を売るという話になると、「親が遺してくれた家を手放すなんて、親不孝な気がして」と、心を痛められる方がたくさんいらっしゃいます。そのお気持ちは、とてもよく分かります。だからこそ、私はお伝えしたいのです。「手放すことは、親不孝でも、失敗でもありませんよ」と。ご両親が家を遺されたのは、あなたを縛るためではなく、あなたの助けになればと願ってのことのはずです。使う当てのない家を、多額のコストをかけて無理に維持し、いつか売れない負動産になって、あなたが苦しむ——それこそ、ご両親が最も望まないことではないでしょうか。実家を売って得たお金を、これからのご自身やご家族の暮らしに役立てる。それは、遺された財産を、いちばん生きた形で活かすことでもあります。もちろん、住み続ける、貸すという選択が合う方もいます。大切なのは、感情と数字の両方を見て、自分たちにとって納得のいく道を選ぶことです。「手放す」という選択を、後ろめたく思う必要はまったくありません。それは、前を向いて生きていくための、立派で前向きな決断なのです。
まとめ——保有コストを数字にして、期限内に決める
| この記事のポイント |
|---|
| 保有コスト(税・保険・修繕・管理の手間)を年間で積み上げて把握する |
| 使わない不動産は持つほど目減りし、放置は負動産化のリスクがある |
| 売る(手残り)・貸す(収益)・持つ(保有コスト)を数字で比べる |
| 数字に感情や家族の意向も加味し、特例の期限内に結論を出す |
| 「決めない先送り」が最も損。手放すことも前向きな選択の1つ |

宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。



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