名義変更を済ませ、相続税の見通しも立つと、相続の手続きは大きな山を越えます。
しかし、ここで多くの人が、もう1つの大きな問いに直面します。
「相続したこの不動産を、これからどうすればいいのか」という問いです。
とくに、誰も住む予定のない実家を相続したとき、その家とどう向き合うかは、簡単に答えの出ない悩みになります。
選択肢は、大きく「売る・貸す・住む」、そして「持ち続ける」の4つ。
この記事では、その4つの選択肢の全体像と、後悔しないための考え方を解説します。

向き合い方は「4つ」に整理できる
相続した不動産への向き合い方は、大きく4つに整理できます。
まずはそれぞれがどういう選択なのかを概観し、自分のケースではどれが現実的なのかを考える土台をつくりましょう。
| 選択肢 | 内容 | 主なメリット |
|---|---|---|
| 売る | 売却して現金に換える | 維持負担から解放・公平に分けやすい |
| 貸す | 人に貸して家賃収入を得る | 資産を手放さず収益化できる |
| 住む | 自分や家族がその家に住む | 思い出を残しつつ住居費を抑える |
| 持ち続ける | 当面は使わず保有する | (消極的。コストとリスクを抱える) |
それぞれにメリットと負担があり、物件や家族の事情に応じて、どれが合うかを見極めていくことになります。
「持ち続ける」は、実は消極的な選択
4つの中で注意したいのが、「持ち続ける」という選択です。
これは一見、何も決めなくてよい無難な道のように見えます。
しかし実際には、コストとリスクを抱え込み続ける選択でもあります。
使わない不動産にも固定資産税はかかり、建物は人が住まなければ急速に傷みます。
「とりあえず持っておく」という消極的な保有は、負動産化への入り口にもなりかねません。
持ち続けるなら、それは「いつか活用する」「値上がりを待つ」といった、明確な理由のある意識的な選択であるべきです。
なんとなく先送りにする「持ち続ける」は、最も避けたい選択だといえます。
期限のある特例を意識する
選択にあたって意識しておきたいのが、税の特例には期限がある、ということです。
この後で詳しく見る「取得費加算の特例」や「空き家の3000万円特別控除」といった、売却時の税負担を大きく軽くする制度があります。
これらは、いずれも相続開始から3年程度の期限が設けられています。
判断を先送りしているうちにこの期限を過ぎると、本来使えたはずの特例が使えなくなります。
結果的に、多くの税金を払うことになりかねません。
「どうするか」を早く決めることには、こうした税制上の意味もあるのです。
とくに売却を視野に入れているなら、期限を意識して動くことが大切です。
思い込みで決めつけない
4つの選択肢を考えるとき、最初から1つに思い込んでしまうのは避けたいところです。
たとえば「実家は残すもの」と決めつけて保有を選んだものの、誰も住まず管理に苦しむ、ということがあります。
あるいは「古い家は売れない」と思い込んで放置していたら、実は買い手がいた、ということもあります。
逆に、急いで売ってしまってから、賃貸にすれば安定収入になったと後悔する例もあります。
大切なのは、4つすべてを一度はテーブルに載せ、それぞれを選んだ場合に何が起きるかを、具体的に比べてみることです。
先入観を脇に置き、物件の条件と家族の状況に即して、落ち着いて検討する姿勢が、最善の選択につながります。
【業界の裏側】 「こんな田舎の古家、売れるわけがない」が覆った話
地方にある実家を相続されたお客様が、こうおっしゃっていました。「築年数も古いし、こんな田舎の家、売れるわけがない。だから、もう何年もそのままにしているんです」と。完全に「売れない」と思い込み、保有を続けておられました。ただ、固定資産税はかかり続け、たまの草刈りや見回りも負担になっていました。私は、「一度、売りに出してみませんか。だめなら、そのとき考えればいいんです」とお伝えしました。半信半疑ながらも売却の準備を進めると、意外な反応がありました。都会の暮らしに疲れて田舎に移り住みたいという方や、古い家を自分の手で直して住みたいという方など、その家を「魅力」と感じる買い手が、ちゃんといたのです。結果として、お客様の家は、思っていたよりずっとスムーズに売れました。「売れないと決めつけて、何年も無駄に維持していた」と、お客様は苦笑いされていました。古い家、田舎の家には、それを求める人がいます。「どうせ売れない」という思い込みだけで保有を続けるのは、もったいないことです。まずは選択肢としてテーブルに載せ、専門家に相談してみる——それが、塩漬けを防ぐ第一歩なのです。
まず、4つを一度テーブルに載せる
相続した不動産をどうするか、その答えは、物件や家族の状況によって変わります。
万人に共通する正解はありません。
だからこそ、最初から1つに絞り込むのではなく、4つすべてを検討の対象に載せることが出発点になります。
売ったらいくらになり、いくら手元に残るのか。
貸したら、どれくらいの収入が見込め、どんな手間がかかるのか。
住むなら、どんな費用がかかるのか。
持ち続けるなら、毎年いくらの維持費がかかり、その先どうするのか。
それぞれを具体的に並べて比べることで、初めて自分にとっての最善が見えてきます。
次の記事からは、この判断軸と、それぞれの選択肢を、1つずつ詳しく見ていきます。

【営業マン視点】 いちばん多くて、いちばん損なのが「決めないこと」
相続した不動産をどうするか。現場で見ていて、いちばん多いのは、実は「決めないまま時間が過ぎていく」パターンです。売るのも、貸すのも、住むのも、それぞれ手間がかかります。だから、つい「今はそのままでいいか」と先送りにしてしまう。お気持ちは、よく分かります。ただ、はっきりお伝えしたいのは、「決めないこと」自体が、静かに損を生み続けるということです。空き家のまま置いておけば、固定資産税は毎年出ていき、建物はどんどん傷んでいきます。傷めば傷むほど、売るときの価値は下がります。そして、この後の記事で見る売却の税の特例は、相続から3年ほどで期限を迎えます。決めずにいるうちに、使えたはずの特例まで失ってしまうのです。私がお客様にお伝えしているのは、「結論を急ぐ必要はないけれど、検討は早く始めましょう」ということです。4つの選択肢を、早めにテーブルに載せて比べる。その作業を先送りにしないことが、結果的に、いちばん得をする道なのです。
まとめ——4つを比べ、「決めない」を避ける
| この記事のポイント |
|---|
| 相続した不動産の選択肢は「売る・貸す・住む・持ち続ける」の4つ |
| 「持ち続ける」は消極的な選択。明確な理由のない保有は負動産化の入り口 |
| 売却の税の特例には相続から3年程度の期限がある。早く決める意味がある |
| 「売れない」「残すもの」などの思い込みで決めつけない |
| 4つすべてを一度テーブルに載せ、具体的に比べる。決めない先送りが最も損 |

宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。



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