晴海フラッグに殺到した転売目的の投資家たち

トラブルの現場

抽選倍率、70倍超。人気の部屋では、200倍を超えることもありました。

HARUMI FLAGの分譲マンションに、これほどの申し込みが殺到したのは、単に「都心の新しい街に住みたい」という人々の熱意だけが理由ではありませんでした。

その裏側には、この物件を「住む場所」ではなく「儲ける手段」として見た、多くの投資家たちの存在がありました。周辺相場に比べて割安な価格設定は、実需層にとっての魅力であると同時に、転売益を狙う投資家にとっての格好の的にもなったのです。

もともとは都有地として、住民全体の財産だった土地。そこに建てられた住宅が、一部の投資家の利益の源泉になっていく。この構図に、多くの人が釈然としない思いを抱きました。

この記事では、HARUMI FLAGで起きた転売現象の実態と、その背景にある構造的な問題を整理します。

ラボ子
抽選倍率200倍超えって、もう「住みたい人」だけの数字じゃないよね。
なぜこんなことになったのか、その仕組みを見ていこう。

「即転」──入居せずに売る人たち

HARUMI FLAGの転売現象を象徴する言葉が、「即転(そくてん)」です。

これは、購入した部屋に一度も入居することなく、引き渡しを受けた直後に売りに出す行為を指します。報道によれば、もともとの販売価格が6000万円程度だった部屋に、3000万円以上を上乗せして売り出されるケースもあったとされています。

住むためではなく、値上がり益を得るために購入する。この動きが、分譲時の異常なまでの高倍率を生み出す大きな要因となりました。

マンションの転売そのものは、正当な商行為です。しかし、もともと公有地だった土地に建つ物件で、これほど大規模に行われたことに対し、疑問の声が上がったのです。

前回までの記事で見たように、この土地は「選手村としての使用」という制約を理由に、割安な価格で事業者に売却されました。その割安さが、めぐりめぐって、最終的に転売益という形で一部の投資家の手に渡っていく。この一連の流れに、多くの人が違和感を覚えたのは自然なことでした。

業界の裏側

新築マンションの購入時に、転売を制限する特約を付けること自体は、技術的には可能です。
しかし、いったん売買が成立した物件の再売却を法的に強く縛ることは、財産権との兼ね合いで簡単ではありません。
「なぜ転売規制をしなかったのか」という問いは、この制度設計の難しさと表裏一体なのです。

投資家を惹きつけた3つの条件

なぜ、これほど多くの投資家がHARUMI FLAGに集まったのでしょうか。そこには、3つの条件が重なっていました。

一つ目は、周辺相場に比べた割安感です。分譲価格が近隣の相場より割安に設定されていたため、購入した時点で、すでに含み益が生まれているような状態でした。

二つ目は、都心マンション価格の継続的な上昇です。近年、都心のマンション価格は新築・中古ともに大きく値上がりを続けており、「買えば上がる」という期待が市場全体に広がっていました。

三つ目は、オリンピック選手村跡地という、唯一無二のブランド性です。話題性のある物件は、それ自体が値上がりの材料と見なされました。

この3つが揃ったことで、HARUMI FLAGは投資家にとって、極めて魅力的な「値上がりが期待できる商品」として認識されることになったのです。

分譲価格が1億円前後という水準も、年収1000万円から2000万円程度のアッパーミドル層や、法人にとっては、融資を使って十分に手が届く範囲でした。この「手が届く投資対象」という絶妙な価格帯も、申し込みの殺到を後押ししました。

個人投資家だけでなく、法人による購入も急増したと報じられており、本来ファミリー層向けに整備されたはずの街が、投資対象へと性格を変えていったのです。

実需層が締め出される構造

この転売現象がもたらした最も深刻な問題は、「本当に住みたい人が買えない」という事態です。

抽選倍率が数十倍から数百倍にまで跳ね上がったことで、実際にそこで暮らすことを目的とするファミリー層が、当選する確率は極めて低くなりました。

投資目的の申し込みが、実需の人々を抽選から締め出してしまう。もともと住民全体の財産だった土地が、実需層には届かず、投資マネーの舞台になってしまったのです。

これは、②バブルと崩壊のシリーズで見た、土地や住宅が「住むもの」から「値上がりを期待する商品」へと変質していく構図と、根本的に共通しています。

営業マン視点

一方で、転売を狙った投資家全員が儲かったわけではない、という点も冷静に見ておく必要があります。
高値で売り出したものの買い手がつかず、値下げを迫られたり、売れ残ったりするケースも報じられています。
「値上がりし続ける」という前提そのものが、いつ崩れてもおかしくないことを、忘れてはいけません。

「値下げ」と「暴落」は違う

近年、「HARUMI FLAGが値下がりしている」という報道も目にするようになりました。

ただし、ここで注意したいのは、「転売の売り出し価格の値下げ」と「物件そのものの価値の暴落」は、分けて考える必要があるという点です。

例えば、分譲価格が7000万円だった部屋を、1億2000万円で売りに出したものの売れず、1億円に値下げしたとします。売り出し価格から見れば2000万円の「値下げ」ですが、分譲価格と比べれば、まだ大きく上回っています。元本割れの暴落とは、意味がまったく異なります。

こうした数字を正確に読み解く力もまた、不動産と向き合う上で欠かせないものです。

ラボ子
「値下げ」と「暴落」を混同すると、実態を見誤っちゃうよね。
次は、そもそもの発端である「公共用地の払い下げ」について、もっと広い視点で見ていこう。

まとめ

項目 内容
即転 入居せず引き渡し直後に転売。3000万円超の上乗せ例も
投資家を惹きつけた条件 割安感・都心マンション価格上昇・選手村跡地のブランド性
生じた問題 高倍率化により実需のファミリー層が締め出される
注意点 「売り出し価格の値下げ」と「価値の暴落」は別物
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宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
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