ニセコに住めなくなる日|地価高騰が地元住民に与える影響

バブルと崩壊

前回の記事で見たように、ニセコは世界的なリゾート地として大きな成功を収めました。

しかし、その成功の裏側で、静かに、しかし確実に進行していた問題があります。

それは、地元に長く暮らしてきた住民たちが、自分の生まれ育った町に住み続けられなくなるという現象です。

「世界が憧れる町」と「そこで暮らす人々の生活」の間に生じたズレは、今、ニセコが直面する最も切実な課題の一つになっています。この記事では、その実態を具体的に見ていきます。

ラボ子
観光客としては夢みたいな町でも、そこで働いて暮らす人にとっては、また違う現実があるんだよね。
その両面を見ていこう。

住居費の高騰と「通勤リゾート」化

ニセコエリアの賃貸物件の家賃は、この十数年で大きく上昇しました。

ホテルやレストランで働くスタッフの多くは、もはやニセコの中心部に住むことができず、隣接する倶知安町の郊外や、さらに離れたエリアから通勤する状況が広がっています。

観光シーズンには、住み込みで働く海外からの季節労働者も多く、限られた賃貸物件を地元住民と奪い合う形になることもあります。

結果として、リゾート地のすぐそばに住みながら働くという、かつては当たり前だった働き方が、今では成立しにくくなっているのです。

片道1時間近い通勤を、雪深い冬の道路状況の中で続けるスタッフも珍しくありません。悪天候による交通の乱れが、そのまま欠勤や人手不足につながることもあり、宿泊施設や飲食店の運営そのものに影響を及ぼすケースも出てきています。

人手不足を補うため、一部の事業者は独自に従業員向けの寮や住宅を整備する動きも見せていますが、すべての事業者がそこまでのコストを負担できるわけではありません。

地元商店の入れ替わり

地価と家賃の高騰は、住居だけでなく商業スペースにも及んでいます。

長年地元住民に愛されてきた食堂や日用品店の中には、賃料の上昇に耐えられず、閉店や移転を余儀なくされた店舗もあります。

その跡地には、海外からの旅行者を主な顧客とする高級レストランや、ブランドショップが入居するケースが目立つようになりました。

観光客にとっては魅力的な変化かもしれませんが、地元住民にとっては、日常の買い物をする場所が少しずつ失われていくことを意味します。

普段使いのスーパーや金物店、地元の食材を扱う店が姿を消し、代わりに観光客向けの土産物店や高価格帯の飲食店が増えていく。この変化は、住民の日常生活の利便性を静かに損なっていきます。

車で30分以上かけて、隣町の大型店舗まで買い物に出かけることが日常になった、という声も聞かれるようになりました。

業界の裏側

不動産業界では、こうした現象を「ジェントリフィケーション」と呼ぶことがあります。
エリアの価値が上昇することで、その価値上昇を作り出した張本人である地元住民が、かえってそのエリアから押し出されてしまう現象です。
世界の有名観光地の多くが、多かれ少なかれこの問題に直面しています。

固定資産税の負担増

地価の上昇は、そこに住み続けるだけの住民にとっても、無関係ではいられません。

固定資産税は、その土地の評価額に基づいて課税されます。地価が上がれば、売却するつもりのない住民であっても、毎年の税負担は増えていきます。

先祖代々受け継いできた土地に住み続けているだけなのに、税負担だけが年々重くなっていく。これは、資産価値の上昇という言葉の響きとは裏腹に、実際の生活を圧迫する要因になっています。

「売れば大金になる土地に住んでいるのに、生活は苦しくなる」という、皮肉な状況が生まれているのです。

この問題は、農地や山林を代々受け継いできた世帯にとって特に深刻です。土地を売却すれば大きな利益を得られる一方で、先祖から受け継いだ土地や、地域とのつながりを手放したくないという思いから、簡単には決断できない住民も少なくありません。

資産としての価値が上がることと、その土地に暮らし続ける自由が保たれることは、必ずしも両立するとは限らないのです。

言語や文化の壁

経済的な負担に加えて、生活環境そのものの変化も、地元住民にとって無視できない要素です。

店舗のメニューや案内表示が英語中心になり、日本語の情報が後回しにされる場面も増えています。

これは決して悪意のある変化ではなく、主要な顧客層が海外からの観光客に大きくシフトしたことの自然な結果です。しかし、長年その土地で暮らしてきた住民からすると、自分の生活圏が、少しずつ「よそ者向け」に作り替えられていくような感覚を覚えることもあるようです。

営業マン視点

地元の方から「観光客のための町になってしまった」という声を耳にすることがあります。
経済的には潤っているはずなのに、なぜか疎外感を覚える。
不動産の価値と、そこで暮らす人の幸福度は、必ずしも比例しないのだと、ニセコの事例は教えてくれます。

行政の対応

こうした状況を受け、地元自治体も対応を模索してきました。

従業員向けの住宅整備を支援する取り組みや、地元住民向けの生活情報を多言語化ではなく日本語で維持する努力など、さまざまな施策が検討・実施されています。

公営住宅の整備や、事業者向けの従業員住宅建設への補助制度など、行政としてできる範囲での対策も進められています。

しかし、これらの取り組みだけで、市場原理によって進む地価上昇そのものを止めることは容易ではありません。

行政の施策は、あくまで市場の変化がもたらす影響を和らげる対症療法的な役割にとどまっており、地価そのものの上昇圧力に対抗する根本的な解決策とはなっていないのが実情です。

次の記事では、この状況に一石を投じる可能性がある「宿泊税」の取り組みについて見ていきます。

ラボ子
観光地として成功すればするほど、住民の暮らしとの間に摩擦が生まれるって、なんだか難しい問題だよね。
次は、その解決策の一つとして注目されている宿泊税を見ていこう。

まとめ

影響 内容
住居費の高騰 従業員が中心部に住めず、遠方から通勤する状況が拡大
地元商店の閉店・移転 賃料上昇により、日常利用の店舗が観光客向け店舗に置き換わる
固定資産税の負担増 地価上昇に伴い、売却予定のない住民の税負担も増加
生活環境の変化 言語や商業構成が海外観光客向けにシフト
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✅ 監修者情報
宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。

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