初めての成約までの全工程

不動産営業のリアルと現場実務

売買仲介の現場では、一つの取引が完結するまでに複数のフェーズを経ます。

査定→媒介契約→物件公開→案内→価格交渉→売買契約→決済——このプロセスの各段階で、営業マンには異なるスキルと判断力が求められます。
そして各フェーズに「案件が壊れるポイント」が存在します。

入社前にこの流れを頭に入れておくことで、現場に入ったときの理解度が大きく変わります。
「なぜあの案件はうまくいかなかったのか」という現実も、全体の流れを知っているからこそ見えてきます。

ラボ子
「不動産の取引ってどう進むの?」って、入社前は意外とわからないよね。全体の流れを先に知っておくと、先輩の動きの意味がわかるようになるよ。現場での学びのスピードが全然変わる。

売買仲介の全工程マップ

フェーズ 営業マンに求められること 壊れやすいポイント
査定 信頼構築・価格根拠の説明 高値査定で媒介を取りに行く誘惑
媒介契約 契約種別の説明・売主のニーズ把握 売主への説明不足による後のトラブル
物件公開・案内 魅力的な見せ方・顧客の反応を読む力 反響が少ない・案内しても決まらない
価格交渉 双方への中立的な伝達・着地点の探索 どちらかの味方になって信頼を失う
売買契約 重要事項説明・書類の正確な準備 説明漏れ・書類不備によるクレーム
決済・引渡し 段取りの正確さ・関係者との連携 書類不備・資金移動のミス

フェーズ① 査定──最初の「信頼の関門」

売主から売却の相談を受けたとき、最初のステップが「査定」です。
査定とは、その物件が現在の市場でいくらで売れるかを試算し、売主に提示することです。

査定に訪問した時点から、営業マンと売主の関係構築は始まっています。
査定価格だけでなく、「この営業マンは信頼できるか」「この会社に任せて大丈夫か」という評価が同時進行で行われています。

査定時に評価されるポイントは以下の3点です。

  • 査定根拠の説明がわかりやすいか
  • 物件の問題点を正直に伝えられるか
  • 売主の事情(なぜ売るのか、いつまでに売りたいのか)を丁寧に聞けるか

価格だけで媒介を取りに行く「高値査定」の問題は業界でよく知られています。
「査定で関係を作れた営業マン」は、多少価格が低くても媒介を取れることがあります。
査定の場は「数字を出す場」ではなく「関係を作る場」と捉えているベテランが多い理由がここにあります。

フェーズ② 媒介契約──「専任」か「一般」かという選択

売主と売却を進める合意ができたら、「媒介契約」を締結します。
媒介契約には3種類あります。

種類 内容 売主にとってのメリット・注意点
専属専任媒介 1社のみに依頼。自己発見取引も不可 仲介会社が最も積極的に動く。報告義務あり(週1回以上)
専任媒介 1社のみに依頼。自己発見取引は可 バランスが良い。報告義務あり(2週間に1回以上)
一般媒介 複数社に同時依頼が可能 競争原理が働く反面、各社の動きが鈍くなりやすい

売主にとっては「複数社に競わせられる一般媒介が有利では?」と思いがちですが、実際には専任契約のほうが仲介会社が積極的に動くため、早期に売れやすいケースも多い。
この説明を誠実にできる営業マンは、売主から信頼されます。

【業界の裏側】 「専任を取れ」と言われる理由

仲介会社側から見ると、専任媒介は「自社が必ず手数料を受け取れる」という安心感があります。だからこそ積極的に動く動機になる。この仕組みを理解した上で、売主にとって最善の媒介形態を提案できるかどうかが、営業マンの誠実さの試金石です。「専任を取れ」という上司の指示の背景には会社の都合がありますが、それが結果的に売主の利益にもなり得るという構造を理解して動ける人が、長く信頼される営業マンになります。

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フェーズ③ 物件公開と案内──「見せ方」が決める印象

媒介契約後、物件情報をレインズ(不動産流通標準情報システム)と各種ポータルサイトに公開します。
写真の撮り方、間取り図の表示、物件コメントの書き方——これらのクオリティが、反響数を大きく左右します。

現地案内の場面では、「物件の長所を伝えること」と同時に「顧客の反応を読み取ること」が重要です。

顧客が物件を見ながら発する何気ない一言——「ここは少し暗いですね」「収納が少ない感じがします」——これらは次のアクションへのヒントです。
「その点はリフォームで解消できます」という即答より、「どんな収納が理想ですか?」と顧客の本音を引き出す質問のほうが、次の提案につながることが多い。

フェーズ④ 価格交渉──最も緊張するフェーズ

買主が物件に興味を持ち、価格交渉が始まるフェーズは、売買仲介の中で最も緊張を要する場面のひとつです。
買主は「もう少し安くならないか」と思い、売主は「できるだけ高く売りたい」と思う。
この両者の間で、仲介業者は「取引を成立させる着地点」を探します。

価格交渉はメッセンジャーの役割が求められます。
買主の意向を売主に伝え、売主の反応を買主に伝える。
このやりとりの中で「どのタイミングで、どの言葉を使うか」が成約率を左右します。

「買主様から○○万円のお値引き申し込みが入りました」という伝え方より、「買主様は非常に気に入っており、こういう条件ならご決断いただけるとのことです」という伝え方のほうが、売主の気持ちを動かしやすい。

仲介業者が最も避けなければならないのは「どちらかの味方になること」です。
常に「取引の成立」という目標を軸に、双方に誠実に向き合う中立性が、プロの仲介業者の最も重要な姿勢です。

ラボ子
価格交渉って、言葉の選び方ひとつで全然違う結果になるんだよね。「どちらかの味方」になった瞬間にもう片方の信頼を失う。中立でいることの難しさと大切さ、現場に入るとより実感できるよ。

フェーズ⑤⑥ 売買契約・決済──最後の関門

価格・条件が合意できれば、売買契約の締結です。
重要事項説明→売買契約書への署名捺印→手付金の授受という流れで進みます。

重要事項の説明は宅建士の義務です。
物件に関するすべての重要情報を買主に説明し、理解を得た上で契約を進める——この手続きを丁寧に行わなければ、後からクレームや訴訟の種になります。
新人のうちに「説明した・説明していない」のトラブルに巻き込まれる多くは、この段階の準備不足が原因です。

決済は、残代金の支払いと所有権移転登記が同時に行われる場面です。
売主・買主・仲介業者・司法書士・銀行担当者が一堂に会し、数千万円の資金移動が起きる。
この場での段取りミスや書類の不備は、取引全体を止めてしまう可能性があります。
仲介業者の事務処理能力と準備力が問われる最終関門です。

【営業マン視点】 新人が一番ミスをするのは「資金計画の後回し」

ベテランの営業マンは、物件の案内をする前に「事前審査(仮審査)」を早期に進める習慣を持っています。「ローンが通る確信がある状態」で売主との交渉に入ることで、契約直前に「ローン審査落ち」で案件が壊れるリスクを最小化するためです。新人のうちはこの段取りを後回しにしがちで、契約直前に問題が発覚する失敗を経験します。「資金計画の確認は案内前に」——これだけで、後半フェーズでの崩壊リスクが大きく下がります。

まとめ:全工程を「前から準備する」意識が大切

売買仲介の全工程は、前のフェーズでの準備が後のフェーズの成否を決める構造になっています。

査定で信頼を作れていれば媒介を取りやすい。
事前審査を早期に通しておけば契約直前の崩壊が減る。
案内時に顧客の本音を引き出せていれば、価格交渉がスムーズになる。

「その場その場で対応する」のではなく、常に次のフェーズを見据えて動く——この意識を持てるかどうかが、新人が早期に成果を出せるかどうかの分岐点になります。

ラボ子
全工程の流れ、イメージできた?次の記事では電話営業の実態を解説するよ。反響への折り返し、追客、地主への開拓——現場でどんな電話をどう使うか、リアルな話をするよ。

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