不動産投資の出口は、売却だけではありません。
保有している不動産を、次世代に「引き継ぐ」という選択肢もあります。
むしろ、不動産は相続対策として活用されることが多く、「現金で持つより不動産で持つほうが相続税が安くなる」という仕組みが、富裕層の資産形成では広く使われています。
一方で、相続をめぐっては、相続人同士の争い・納税資金の不足・分割の難しさといった問題も発生します。
「相続させれば家族が喜ぶ」と単純に考えていると、かえって家族に負担を残すことにもなりかねません。
この記事では、不動産の贈与・相続の基本的な仕組みと、相続対策としての不動産活用、そして引き継ぐ際の注意点を整理します。
なお、相続・贈与は個別性が高く専門的な領域のため、実行にあたっては必ず税理士・専門家への相談が前提となります。

なぜ不動産は「相続対策」になるのか
不動産が相続対策に有効とされる最大の理由は、相続税の評価額が時価より低くなるためです。
現金1億円を相続すると、相続税はその1億円に対して課税されます。
しかし、同じ1億円で購入した不動産を相続すると、相続税評価額は時価より低く評価されるため、課税対象額が圧縮されます。
| 資産の種類 | 相続税評価額の目安 |
|---|---|
| 現金・預金 | 額面そのまま(100%) |
| 土地 | 路線価ベースで時価の約80% |
| 建物 | 固定資産税評価額で時価の約60% |
| 賃貸中の土地(貸家建付地) | さらに約2割減 |
| 賃貸中の建物(貸家) | さらに3割減 |
とくに、賃貸に出している不動産は「貸家建付地」「貸家」として、さらに評価額が下がります。
これは、賃貸中の不動産は所有者が自由に使えない(入居者の権利がある)ため、その分価値が低く評価されるという考え方によるものです。
結果として、同じ価値の資産でも、現金で持つより賃貸不動産で持つほうが、相続税評価額を大きく圧縮できます。
これが「不動産は相続対策になる」と言われる仕組みの核心です。
相続税の基本構造——基礎控除を理解する
相続税には「基礎控除」があり、相続財産がこの範囲内であれば相続税はかかりません。
| 基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
|---|
たとえば、相続人が配偶者と子供2人の合計3人の場合、基礎控除は次のようになります。
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円。
つまり、相続財産が4,800万円以下であれば、相続税はかかりません。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
基礎控除を超える部分に対して、累進的に相続税が課税されます。
不動産で評価額を圧縮することで、この「基礎控除を超える部分」を小さくし、相続税を軽減できます。
自分の資産が基礎控除を超えるかどうかを把握することが、相続対策を考える出発点です。
生前贈与という選択肢
相続を待たずに、生前に不動産を贈与する方法もあります。
贈与税は相続税より税率が高い面がありますが、計画的に活用すれば相続税対策になります。
| 贈与の方法 | 内容 |
|---|---|
| 暦年贈与 | 年間110万円までの基礎控除を活用 |
| 相続時精算課税制度 | 2,500万円まで贈与時非課税・相続時に精算 |
| 不動産の持分贈与 | 毎年少しずつ持分を贈与していく |
「暦年贈与」は、年間110万円までの贈与なら贈与税がかからない仕組みを使い、長期にわたって少しずつ資産を移転する方法です。
「相続時精算課税制度」は、2,500万円までの贈与を一時的に非課税にし、相続時に相続財産に加えて精算する制度です。
これらの制度には、それぞれメリットとデメリット、適用条件があり、どちらを使うかは資産状況・家族構成・将来計画によって変わります。
なお、近年の税制改正で暦年贈与や相続時精算課税制度のルールは変更されており、最新の制度内容は税理士に確認することが必須です。
相続でもめないための「分割」の視点
不動産相続で最も多いトラブルが、「分割の難しさ」です。
現金は1円単位で分けられますが、不動産は物理的に分けることが困難です。
相続人が複数いる場合、「誰がどの不動産を相続するか」「価値の差をどう調整するか」をめぐって争いが生じやすくなります。
| 分割の方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 物件ごとに相続人を分ける | 価値の差が生じやすい |
| 代償分割 | 1人が相続し他の相続人に現金を支払う | 代償金の資金が必要 |
| 換価分割 | 売却して現金を分ける | 譲渡所得税が発生 |
| 共有分割 | 複数人で共有する | 将来の処分・管理で再びもめやすい |
とくに避けたいのが、安易な「共有分割」です。
不動産を兄弟姉妹で共有名義にすると、売却や大規模修繕の際に全員の合意が必要になり、意思決定が困難になります。
さらに、共有者の誰かが亡くなると、その持分がさらに次の世代に相続され、権利関係が複雑化していきます。
「とりあえず共有」は、将来世代に問題を先送りする選択になりがちです。
相続でもめないためには、生前に「誰がどの資産を引き継ぐか」を明確にし、遺言書を作成しておくことが有効です。
「納税資金」の確保という重要課題
不動産相続のもうひとつの大きな課題が、「納税資金の確保」です。
相続税は、原則として現金で一括納付する必要があります。
しかし、相続財産の大部分が不動産で、現金が少ない場合、「相続税を払う現金がない」という事態に陥ります。
| 納税資金が不足した場合の対応 | 内容・リスク |
|---|---|
| 不動産を売却して納税 | 急いで売ると安値になりがち |
| 延納(分割払い) | 利子税が発生 |
| 物納(不動産で納税) | 要件が厳しく評価も低くなりがち |
| 生前の現金準備 | 最も安全だが計画的な準備が必要 |
相続税の納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」と定められています。
この短期間で多額の現金を用意するのは、容易ではありません。
不動産を相続対策として活用する場合は、「相続税評価額を下げる」効果だけでなく、「納税資金をどう確保するか」までセットで計画することが重要です。
生命保険の活用・賃貸収入の積立・一部物件の現金化など、納税資金の準備手段を組み合わせて考えることが、家族に負担を残さない相続対策になります。
【業界の裏側】 「相続対策アパート」のリスク
「相続税対策にアパートを建てましょう」という提案は、建設会社やハウスメーカーの定番の営業トークです。確かに更地にアパートを建てると、土地が「貸家建付地」になり相続税評価額が下がり、建物部分も借入金で相続財産を圧縮できます。しかし、この提案には落とし穴があります。賃貸需要のない土地に相続税対策だけを目的にアパートを建てると、空室が埋まらず、ローン返済だけが残るという事態に陥ります。相続税は節約できても、収益の出ないアパートを抱えることになり、トータルでは損をする可能性があります。「相続税対策」を主目的にした建築は、まず「その土地に本当に賃貸需要があるか」を冷静に検証することが必要です。相続対策と収益性は別の問題として、両方を満たせる場合にのみ建築を判断する姿勢が、家族に健全な資産を残すことにつながります。
不動産を「売る」か「引き継ぐ」かの判断
出口戦略として、「売却」と「相続・贈与」のどちらを選ぶかは、家族の状況によって変わります。
| 引き継ぐべきケース | 売却すべきケース |
|---|---|
| 家族に引き継ぐ意思と能力がある | 家族が不動産経営に関心がない |
| 収益力の高い優良物件 | 収益力が低下している物件 |
| 相続税評価額の圧縮効果が大きい | 納税資金の確保が難しい |
| 相続人が単独で分割問題がない | 相続人が複数で分割が複雑 |
「家族が不動産経営に関心がない」「相続人同士で分割が難しい」といった場合は、生前に売却して現金化しておくほうが、家族にとって扱いやすい資産になります。
現金であれば分割も容易で、納税資金の心配もありません。
逆に、家族に引き継ぐ意思と能力があり、収益力の高い物件であれば、相続対策のメリットを活かして引き継ぐ選択が合理的です。
「不動産で残すこと」が常に正解ではなく、家族の状況に応じて「現金化して残す」選択も含めて検討することが重要です。

【営業マン視点】 「生前に家族会議」をするオーナーは成功している
相続をスムーズに進めているオーナーに共通するのは、「生前に家族と話し合っている」ことです。不動産の相続は、本人が亡くなった後に初めて相続人が状況を知ると、「こんな物件があったのか」「ローンが残っているのか」「誰が引き継ぐのか」といった混乱が生じます。生前に「どの物件を持っているか」「収支はどうか」「誰に引き継いでほしいか」を家族に共有しておくと、相続発生時の混乱を大きく減らせます。とくに賃貸経営は引き継いだ家族が運営を続ける必要があるため、管理会社・税理士・物件の状況などの情報を生前に伝えておくことが重要です。「相続対策」というと税金の話に偏りがちですが、実は「情報の引き継ぎ」と「家族の合意形成」こそが、もめない相続の核心です。エンディングノートや資産一覧を作成しておくことも、家族への大きな配慮になります。
まとめ——相続は「税金」だけでなく「家族」の視点で考える
| この記事のポイント |
|---|
| 不動産は相続税評価額が時価より低く、相続対策として有効 |
| 賃貸中の不動産はさらに評価額が下がる(貸家建付地・貸家) |
| 基礎控除(3,000万+600万×相続人数)を超えるかが出発点 |
| 分割の難しさ・納税資金の確保が不動産相続の二大課題 |
| 「相続対策アパート」は賃貸需要の検証が不可欠 |
| 税金だけでなく「家族の合意」と「情報の引き継ぎ」が核心 |

宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。



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