不動産の売却は、初めて経験する人にとっては未知の作業の連続です。
査定依頼から始まり、媒介契約、売出活動、内見対応、価格交渉、契約、引き渡しまで、3〜6か月にわたる複数のステップを進めていく必要があります。
各ステップで「何を準備し、何を判断するか」を事前に知っておくと、トラブルを避けながらスムーズに進められます。
逆に、流れを把握しないまま動き始めると、必要書類が間に合わない・想定より時間がかかる・契約直前で買い手が降りる、といった問題に直面します。
この記事では、不動産売却の全体の流れと、各ステップで押さえるべき実務ポイントを時系列で整理します。

売却の全体プロセス——7ステップの流れ
不動産の売却は、大きく7つのステップで進みます。
| ステップ | 期間目安 | 主な作業 |
|---|---|---|
| ① 事前準備 | 1〜2か月 | 書類収集・物件整備・税負担試算 |
| ② 査定依頼 | 2週間 | 複数の仲介会社に査定依頼 |
| ③ 媒介契約 | 1週間 | 仲介会社選定・契約形態決定 |
| ④ 売出活動 | 1〜3か月 | 広告掲載・問い合わせ対応・内見 |
| ⑤ 価格交渉 | 1〜2週間 | 買い手との条件すり合わせ |
| ⑥ 売買契約 | 1日 | 契約書締結・手付金受領 |
| ⑦ 決済・引き渡し | 1〜2か月後 | 残金受領・所有権移転・引き渡し |
全体で3〜6か月程度かかるのが標準的なスケジュールです。
人気物件で早期に買い手が決まれば短縮されますが、物件によっては半年以上売れないこともあります。
「売却を決意してから現金が手元に入るまで」のタイムラグを意識して、資金計画を立てる必要があります。
ステップ①——事前準備で揃える書類
売却を進める前に、必要書類を整理しておくことが重要です。
書類が揃っていないと、査定・媒介契約・売買契約の各段階で遅延が発生します。
| 必要書類 | 入手先・備考 |
|---|---|
| 登記済証・登記識別情報 | 取得時に法務局から発行された書類 |
| 登記簿謄本 | 法務局で取得(オンライン可) |
| 建築確認済証・検査済証 | 建築時の書類・所有者保管 |
| 固定資産税納税通知書 | 直近のもの |
| 公図・測量図 | 法務局・土地家屋調査士 |
| 賃貸借契約書(全戸分) | 入居者ごとの契約書 |
| 管理会社との契約書 | 管理委託契約の現状 |
| 過去の修繕履歴 | 領収書・契約書を時系列で |
| 家賃集金明細 | 直近1〜2年分 |
| ローン残高証明書 | 金融機関で発行 |
とくに「建築確認済証・検査済証」は紛失するケースが多い書類です。
これがないと買い手の融資審査で不利になり、価格交渉でも不利な立場に立たされます。
紛失している場合は、自治体に「建築計画概要書」や「台帳記載事項証明」を発行してもらうことで、代替的に証明できる場合があります。
事前に書類の所在を確認し、不足分は早めに手当しておくことが鉄則です。
ステップ②——査定の取り方と査定額の読み方
査定は、複数の仲介会社から取るのが基本です。
1社だけだと、提示された額が高いか安いか判断できません。
| 査定の方式 | 内容 |
|---|---|
| 机上査定(簡易査定) | 物件情報のみで算定・概算把握用 |
| 訪問査定(実査定) | 現地確認の上で算定・実際の売出価格根拠 |
査定額の読み方も重要です。
各社の査定額がバラついた場合、単純に「最高額の会社」を選ぶのは危険です。
| 査定額の見方 | 注意点 |
|---|---|
| 極端に高い査定 | 「とりあえず契約」狙いの可能性・後で値下げ要求 |
| 極端に低い査定 | 「早く売って手数料を確定」狙いの可能性 |
| 中間帯の査定 | 市場相場に近い実勢価格の可能性 |
査定額そのものよりも、「なぜその価格なのか」の根拠説明を聞くことが重要です。
「近隣の取引事例」「収益還元法での計算」「物件の特徴を踏まえた評価」など、論理的な説明ができる会社を選びます。
ステップ③・④——媒介契約と売出活動
仲介会社を選んだら媒介契約を締結します。
媒介契約の種類は記事67で扱いましたが、ここでは契約後の売出活動の進め方を見ていきます。
| 売出活動の主な内容 | 確認ポイント |
|---|---|
| ポータルサイト掲載 | 楽待・健美家・LIFULL HOME’S等 |
| REINS登録 | 専任・専属専任は登録義務あり |
| 自社の投資家リストへの案内 | 仲介会社の独自ネットワーク活用 |
| 問い合わせ対応 | 買い手からの質問・内見手配 |
| 活動報告 | 専任契約なら2週間に1回以上の報告義務 |
売出開始から1か月経っても問い合わせがほぼゼロ・内見が入らないという状態は、価格設定か販売活動に問題があるサインです。
この段階で仲介会社と相談し、価格の見直しや広告内容の修正を検討する必要があります。
「放置して待つ」のではなく、状況を見ながら戦略を柔軟に修正していく姿勢が重要です。
ステップ⑤——買付申込書(買い付け証明書)の読み方
買い手が見つかると、「買付申込書」が提示されます。
これは買い手の購入意思を示す書類で、価格・条件・スケジュールが明記されています。
| 買付申込書の確認項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 買付価格 | 指値の幅・売出価格との差 |
| 買い手の属性 | 個人・法人・年収・勤務先 |
| 融資特約の有無 | 融資不成立時の解除条件 |
| 手付金の額 | 売買金額の5〜10%程度が一般的 |
| 契約予定日 | 買付から1〜2週間以内が標準 |
| 引き渡し希望日 | 契約から1〜2か月後が標準 |
複数の買付が同時期に入った場合、価格だけで選ぶのは早計です。
融資特約付きで属性に不安がある買い手より、価格は少し低くても現金一括・属性良好な買い手のほうが安全です。
「買付価格が高いが融資不成立で流れる」というのは現場でよくあるパターンで、流れると次の買い手探しに数か月かかります。
買付の質を見極めることが、確実な売却につながります。
ステップ⑥——売買契約の実務
買付内容で合意が取れたら、売買契約に進みます。
売買契約は1日で完結する作業ですが、契約書の内容は数十年に渡って効力を持つため、内容を細部まで確認する必要があります。
| 売買契約書の重要項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 物件の表示 | 登記簿と一致しているか |
| 売買代金・支払条件 | 手付金・中間金・残金の金額と時期 |
| 引き渡し時期 | 明確な日付の特定 |
| 契約解除の条件 | 融資特約・手付解除・違約金 |
| 瑕疵担保(契約不適合責任) | 責任期間・範囲 |
| 付帯設備の引き継ぎ | エアコン・給湯器等の取扱い |
| 入居者の引き継ぎ | 敷金返還義務・現状の賃貸契約 |
特に「契約不適合責任」は、引き渡し後にトラブルになりやすい項目です。
引き渡し後に欠陥が発見された場合、売主の責任で修補や減額・契約解除を求められることがあります。
投資用物件の場合、責任期間を「引き渡し後3か月」など短期に設定したり、「設備の故障は対象外」などの除外規定を入れたりすることが一般的です。
契約書の文言は仲介会社が用意することが多いですが、内容に不明点があれば必ず質問し、納得してから署名・捺印します。
【業界の裏側】 「融資特約付き買付」のリスク
買付申込書に「融資特約」が付いている場合、買い手の融資が通らなければ契約は白紙撤回となり、手付金も返還されます。売主にとっては大きなリスクで、契約から決済までの期間(通常1〜2か月)を空費することになります。融資特約による解約が起きた場合、その間に他の買い手を逃しているため、結果的に売却が遅れる・価格を下げざるを得なくなる、という二次被害が発生します。融資特約を付ける場合は、買い手の事前審査の状況を仲介会社に確認することが重要です。「融資承認済」「融資打診済で内諾」など、どの段階かで成立確度が大きく変わります。複数の買付が入った場合、融資特約なしの買い手や事前承認済みの買い手を優先することで、契約流れのリスクを減らせます。
ステップ⑦——決済・引き渡しの実務
売買契約から1〜2か月後に決済(引き渡し)が行われます。
この日に、買い手から残金を受領し、所有権を移転します。
| 決済日の作業 | 内容 |
|---|---|
| 残金の受領 | 買い手から指定口座への振込確認 |
| ローン残債の一括返済 | 受領した残金から金融機関へ返済 |
| 抵当権抹消手続き | 司法書士が手配 |
| 所有権移転登記 | 司法書士が同時に手配 |
| 固定資産税の精算 | 日割計算で買い手から受領 |
| 賃料の精算 | 月内の家賃を日割で按分 |
| 敷金の引き継ぎ | 入居者から預かった敷金を買い手に引き継ぎ |
| 仲介手数料の支払い | 仲介会社へ手数料を決済 |
決済日は、金融機関の会議室で行われることが多く、売主・買主・仲介会社・司法書士・金融機関担当者が一堂に会します。
所要時間は2〜3時間程度です。
すべての書類のやり取りと資金移動を1日で完結させるため、事前の段取りが重要になります。
売却後にやるべきこと
引き渡しが終わっても、いくつかの事後処理が残ります。
| 売却後の作業 | タイミング |
|---|---|
| 確定申告(譲渡所得) | 売却翌年の2月16日〜3月15日 |
| 管理会社との契約解約 | 引き渡し前後 |
| 入居者への通知 | 所有者・振込先変更の連絡 |
| 火災保険の解約 | 引き渡し後すぐ(残期間返戻あり) |
| 受領現金の運用先決定 | 次の投資・運用計画 |
とくに重要なのが「翌年の確定申告」です。
譲渡所得が発生した場合、確定申告で譲渡所得税を計算・納税する必要があります。
申告漏れは追徴課税の対象になるため、売却した翌年の確定申告期は忘れずに対応します。
譲渡所得が大きい場合は、税理士に依頼するのが安全です。

【営業マン視点】 「決済日まで気を抜かない」のが鉄則
売買契約を結ぶと「もう売れた」と気持ちが緩むオーナーが多いのですが、決済が完了するまで取引は本当の意味で成立していません。契約から決済までの期間に、買い手側の事情で取引が流れることが現実にあります。融資特約による解除、買い手の心変わり、買い手の家族からの反対、市況の急変——様々な要因で「契約はしたが決済には至らなかった」というケースが現場では発生します。決済日に銀行口座への振り込みを確認するまでは、油断せずに次の買い手対応の準備も並行しておくのが、賢いオーナーの姿勢です。仲介会社からの連絡には常に対応できる状態を保ち、買い手側の動きを把握し続けることが、確実な売却完了につながります。
まとめ——売却は「準備とスケジュール管理」が成否を決める
| この記事のポイント |
|---|
| 売却は7ステップ・3〜6か月の長丁場プロジェクト |
| 事前準備の書類10種類を早めに収集する |
| 査定額は単独でなく根拠で判断する |
| 買付申込書は価格だけでなく属性・融資特約・手付額も確認 |
| 契約不適合責任は契約段階で範囲・期間を明確化 |
| 決済まで気を抜かず、翌年の確定申告も忘れずに |

宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。



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