不動産投資の数字をめぐっては、初心者が陥りやすい「数字の勘違い」がいくつかのパターンとして繰り返し起きています。
これらの勘違いは、知識が不足しているというよりも、「見えやすい数字に引きずられ、見えにくいコストを無視する」という心理的な傾向から生まれます。
意識的に「見えにくいコストを見に行く」習慣を持つことで、こうした勘違いの多くは防ぐことができます。
この記事では、特に頻繁に起きる数字の勘違いを整理し、第4章のまとめとします。

勘違い① 「家賃収入=手取り収入」だと思っている
最も多い勘違いのひとつが、「家賃が毎月○○万円入るから、そのまま手元に残る」という思い込みです。
実際には、家賃収入からローン返済・管理費・固定資産税・修繕費・保険料・空室損が差し引かれた後に残るものが手取り収入です。
これらのコストを合計すると、家賃収入の30〜50%程度になることも珍しくありません。
「月々8万円の家賃収入がある物件を買った。毎月8万円が入ってくる」という計算で生活設計をしていると、実態とのギャップに苦しむことになります。
| 思い込み | 実態 |
|---|---|
| 家賃8万円=毎月8万円が手元に残る | 経費・ローン返済を引くと手元には4〜6万円程度 |
| 年間家賃96万円が丸ごと収入 | 空室・修繕を考慮すると実質はさらに減少 |
勘違い② 利回りの数字だけで物件を比較する
「利回り8%のA物件」と「利回り6%のB物件」を比較したとき、単純に利回りが高いA物件を選んでしまう、という勘違いです。
利回りの数字だけでは、立地・築年数・修繕の必要性・出口の見えやすさといった、収益の持続性に関わる要素が反映されていません。
表面利回り8%でも、修繕費がかさみ実質利回りが3%になる物件と、表面利回り6%で修繕の必要が少なく実質利回りが5%になる物件であれば、後者の方が優れた投資先になることがあります。
「利回りが高い方が良い」という単純比較は、不動産投資においては成立しません。
実質利回り・空室リスク・出口の見えやすさを含めた総合評価が必要です。
勘違い③ 「節税できる=得をしている」と思い込む
減価償却を活用した節税は、給与所得などと損益通算することで、その年の納税額を減らす効果があります。
しかし「節税できた」ことと「資産が増えた」ことは別の話です。
不動産投資による所得が赤字になっているからこそ節税効果が生まれているのであって、その赤字自体は実際のお金の動きとしてマイナスです。
減価償却費は「実際にお金が出ていくわけではない経費」ですが、それ以外の赤字(金利・諸経費が家賃収入を上回る部分)は実際にキャッシュアウトしています。
| 考え方 | 内容 |
|---|---|
| 節税額 | 不動産所得の赤字×自分の税率で還付・減税される金額 |
| 実際のキャッシュアウト | 不動産所得の赤字のうち、減価償却以外の部分は実際の持ち出し |
| トータルで見ると | 節税額<実際のキャッシュアウトであれば、トータルでは「持ち出し」になっている |
「節税できているから良い投資」という判断は、実際のキャッシュの動きを確認しない限り正しいかどうかわかりません。
節税効果は投資の「おまけ」であって、それ自体が投資の目的になってはいけません。
【業界の裏側】 「年間○○万円の節税効果」という数字の作り方
「この物件なら年間○○万円の節税になります」という説明は、不動産所得の赤字額に投資家本人の税率(所得税+住民税)を掛けて算出されています。たとえば不動産所得が年間100万円の赤字で、税率が30%なら、節税額は30万円という計算です。しかし、この計算には「100万円の赤字そのものは何だったのか」という視点が抜けています。赤字100万円のうち、減価償却費が60万円、その他の経費(金利・修繕費等)が40万円だとすれば、その40万円は実際にキャッシュアウトしています。30万円の節税効果のために40万円のキャッシュアウトをしているなら、ネットでは10万円の持ち出しです。「節税額」だけを切り出して説明する手法には、こうした構造が隠れていることがあります。
勘違い④ 減価償却が「永遠に続く」と思っている
減価償却費は、建物の構造に応じた耐用年数に基づいて計算され、一定期間が過ぎると計上できなくなります。
木造アパートであれば耐用年数22年(中古の場合はさらに短くなる)、RC造マンションであれば47年です。
特に中古物件の場合、購入時点で耐用年数の大部分が経過していることが多く、減価償却期間が非常に短くなるケースがあります。
減価償却が終了すると、それまで「経費」として計上できていた金額がなくなり、不動産所得が一気に増加します。
その結果、所得税の負担が急増し、それまでプラスだったキャッシュフローが、税金の増加によって圧迫されることがあります。
| 時期 | 税負担への影響 |
|---|---|
| 減価償却期間中 | 経費が大きく、不動産所得が赤字または小さい黒字 |
| 減価償却終了後 | 経費が減り不動産所得が増加。所得税負担が急増 |
「減価償却が終わった後の収支」を購入前に計算しておくことが、長期保有における重要な準備です。
勘違い⑤ 「ローンを完済すれば資産になる」と単純に考える
「ローンを完済すれば、その後は家賃が丸々収入になる」という考え方は、半分は正しく、半分は誤解を含んでいます。
確かにローン完済後は返済負担がなくなりますが、その時点での建物の状態を考慮する必要があります。
ローン完済までに20〜30年かかる場合、その時点で建物は相当に老朽化しています。
大規模修繕や設備更新が必要な時期と、ローン完済のタイミングが重なることもあります。
「完済=収入が丸々入る」のではなく、「完済後も修繕費というコストは続く」という前提で考える必要があります。
「ローン完済後の物件」が「収益を生み続ける資産」であるか「修繕費がかさむお荷物」であるかは、その時点の建物の状態によって大きく異なります。

【営業マン視点】 「将来のことは将来考えればいい」という言葉に注意
営業マンが「減価償却が終わった後のことは、その時に考えればいいですよ」「ローン完済後のことは、まだ先の話なので」と言うことがあります。確かに将来のことは不確実ですが、「今のうちに計算しておくこと」と「実際にその時が来てから対応すること」は大きく違います。減価償却終了後の税負担、ローン完済時の建物の状態——これらは現在の情報からある程度予測可能です。「将来のことは将来」という言葉で先送りにされた問題は、その将来が来たときに投資家自身が一人で対処することになります。購入前にできる予測は、できる限り行っておくことが重要です。
まとめ——第4章を振り返って
| 第4章で学んだこと |
|---|
| 表面利回りと実質利回りは大きく異なる。経費・税金・空室を含めて自分で計算し直す |
| キャッシュフローは「手元に残る現金」。保守的な前提でプラスを確保する |
| 家賃設定は「決まる家賃」を意識し、ランニングコスト・空室率・修繕費を網羅的に見積もる |
| 出口(売却価格・残債・トータル収益)まで含めて投資を評価する |
| 「家賃=手取り」「利回りだけで比較」「節税=得」といった勘違いを避ける |

宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。




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