不動産相続には、世間で広く信じられている「思い込み」がいくつもあります。
「うちは相続税なんて関係ない」「名義はそのままでも大丈夫」——こうした言葉を、ご相談の現場で本当によく耳にします。
ところが、その思い込みのまま判断を進めてしまい、後で「知らなかった」と慌てる方が後を絶ちません。
誤解は、早めに正しておかないと、誤った前提のまま動いて思わぬ損につながります。
この記事では、不動産相続でとくに多い5つの誤解を取り上げ、それぞれ「事実はどうなのか」を整理します。
「うちは大丈夫」という思い込みを、ここで一度、点検しておきましょう。

「うちは大丈夫」が、相続で損をする入り口
相続で損をする人には、ある共通点があります。
それは、知識が足りないことではなく、「誤った思い込みのまま動いてしまう」ことです。
「うちは相続税はかからない」「名義は急がなくていい」——こうした思い込みは、一見もっともらしく聞こえます。
しかし、その前提が間違っていると、判断のすべてがずれていきます。
まずは、よくある5つの誤解を一覧で確認しておきましょう。
| よくある誤解 | 事実 |
|---|---|
| ① うちには相続税はかからない | 都市部の持ち家だけで基礎控除を超えることがある |
| ② 名義はそのままでも問題ない | 2024年4月から義務化。放置は過料と負動産化を招く |
| ③ 共有名義にすれば公平で安心 | 共有は売却も活用も全員一致が必要で後々揉める |
| ④ 空き家でも持っていれば資産 | 持つだけで税・管理費がかかり「負動産」になりうる |
| ⑤ 長男が実家を継ぐのが当然 | 法律上は子の間に優先順位はなく、慣習にすぎない |
誤解①②——「相続税」と「名義」の思い込み
まず①の「うちには相続税はかからない」という思い込みです。
「相続税は一部の資産家だけのもの」という認識は、半分正しく、半分間違いです。
確かに相続税には基礎控除があり、課税される人は全体の1割前後にとどまります。
しかし、都市部に持ち家があるだけで、土地の評価額が高く、基礎控除を超えてしまうケースは珍しくありません。
「うちは関係ない」と決めつけて何も調べないと、申告期限を過ぎてから慌てることになります。
かかるかどうかが分からないときは、早めに税理士に試算を依頼しておくと、その後の準備がぐっと楽になります。
次に②の「名義はそのままでも問題ない」という誤解です。
かつては実害が少なかったため、亡くなった親の名義のまま何十年も放置された不動産が、全国に大量に存在しています。
しかし登記が義務化された今、放置は過料のリスクを伴います。
さらに、名義を放置したまま相続人が亡くなると、権利関係がねずみ算式に複雑になり、いざ売ろうとしたときに大勢の同意が必要で動かせなくなります。
これが、後で説明する「負動産」が生まれる大きな原因です。
誤解③④——「共有」と「空き家」の思い込み
③の「共有名義にすれば公平で安心」も、根強い誤解です。
「兄弟で平等に分けたいから、とりあえず3人の共有名義にしよう」——一見、公平で円満な解決に見えます。
しかし共有には、後で大きな落とし穴があります。
共有名義の不動産は、売却や大規模な活用に、共有者「全員」の同意が必要になります。
1人でも反対したり、連絡が取れなくなったりすると、その不動産は身動きが取れなくなります。
さらに、共有者の誰かが亡くなると、その持分がまた次の相続人へと分かれ、関係者がどんどん増えていきます。
「とりあえず共有」は、問題を先送りにして、将来の自分や子ども世代に難題を残す選択になりがちです。
続いて④の「空き家でも持っていれば資産」という思い込みです。
不動産は持っているだけで価値がある、と考えてしまいがちですが、誰も住まない・貸さない空き家は別です。
固定資産税や火災保険、たまの管理費が毎年出ていくうえ、放置して「特定空家」に指定されると、税の優遇が外れて負担がさらに増えることもあります。
持っているだけでお金が出ていく不動産は、もはや資産ではなく「負動産」なのです。
【業界の裏側】 「うちは相続税なんて関係ない」と言っていた家が、実は課税対象だった
以前、都市部に持ち家のある60代のご相談者が、「うちは普通のサラリーマン家庭だから、相続税なんて関係ない」とおっしゃっていました。財産は、住んでいる戸建てと、わずかな預金くらい。たしかに、ぱっと見では資産家には見えません。ところが、いざ土地の評価額を確認してみると、駅に比較的近い立地だったこともあり、路線価ベースの評価が思いのほか高く、預金と合わせると基礎控除を超えていたのです。ご本人は「土地って、そんなに高く評価されるんですか」と驚いておられました。都市部では、ごく普通の持ち家でも、土地の評価額だけで基礎控除に届いてしまうことが珍しくありません。「うちは大丈夫」と決めつけて何も確認しないことが、いちばん危ないのです。早い段階で税理士に試算をお願いしていれば、慌てずに準備ができたはずでした。相続税は「かかるかどうかを、まず確認する」ところから始まります。
誤解⑤——「長男が継ぐのが当然」という思い込み
最後に⑤の「長男が実家を継ぐのが当然」という思い込みです。
「家を継ぐのは長男」という感覚は、今でも根強く残っています。
しかし、これはあくまで慣習であって、法律上の決まりではありません。
かつての「家督相続」という制度はすでに廃止されており、今の法律では、子どもの間に相続の優先順位はありません。
配偶者と子が相続人になり、子は原則として平等の立場で相続権を持ちます。
もちろん、話し合いで「長男が実家を引き継ぐ」と決めること自体は問題ありません。
ただし、それは相続人全員の合意があってこそ成り立つもので、「長男だから当然」という前提で進めると、思わぬ揉め事の火種になります。
「法律ではどうなっているのか」を正しく知っておくことが、円満な話し合いの土台になります。

【営業マン視点】 「とりあえず共有で」と言うお客様に、一度立ち止まってもらう理由
ご兄弟での相続のご相談で、「もめたくないから、とりあえず全員の共有名義にしておきます」とおっしゃる方は、とても多いです。その場の空気としては、いちばん角が立たない、平和な選択に見えます。けれど私は、そういうときこそ一度立ち止まっていただくようにしています。なぜなら、共有名義の不動産は、売るにも貸すにも、大きく手を入れるにも、共有者全員の同意が必要だからです。今は仲が良くても、何年か経てば考え方も生活も変わります。さらに、共有者のどなたかが亡くなれば、その持分がお子さんたちに分かれ、気づけば顔も知らない親族との共有になっていた、という話も珍しくありません。「公平に見える共有」が、将来いちばん動かせない財産を生んでしまうことがあるのです。私はいつも、「共有は”先送り”になりやすいので、できれば今、分け方をはっきり決めておきましょう」とお伝えしています。
まとめ——「思い込み」を手放し、事実で判断する
| この記事のポイント |
|---|
| 「相続税はかからない」は油断。都市部の持ち家は早めに確認を |
| 「名義はそのままでOK」は誤り。義務化+数次相続で負動産化する |
| 「共有なら公平」は落とし穴。全員一致が必要で動かせなくなる |
| 「空き家でも資産」は危険。持つだけでコストがかかる負動産も |
| 「長男が継ぐのが当然」は慣習。法律上は子に優先順位はない |

宅建士資格保有・不動産業界歴10年以上の現役実務者が監修・運営しています。
売買・法律・税金・開業まで、現場の実務経験をもとに情報を発信しています。



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