「不動産の仕事に入りたいけど、最初は何から始めたらいい?」と聞いたとき、業界経験者の多くが「まず賃貸仲介から始めるのが無難」と答えます。
その理由は、売買と比べて1件あたりのリスクが小さく、件数をこなすことで早期に成功体験を積みやすいからです。しかし賃貸仲介には、それ独自の難しさと厳しさがある。「楽な仕事」だと思って入ると、最初の繁忙期で現実を叩きつけられます。
この記事では、賃貸仲介営業の仕事の全体像から、繁忙期・閑散期の実態、向き不向きまで現場目線で解説します。

賃貸仲介の仕事の全体像
賃貸仲介の仕事は、「部屋を探している人に最適な物件を紹介し、賃貸借契約を成立させること」です。流れは以下の通りです。
| ステップ | 業務内容 |
|---|---|
| ① 来店・問い合わせ対応 | 電話・メール・来店での初回対応。第一印象が信頼の出発点。 |
| ② ヒアリング | 希望エリア・家賃・間取り・引越し時期・生活スタイルを把握する。 |
| ③ 物件提案・案内 | 条件に合う物件を絞り込み、現地案内を行う。 |
| ④ 申込・審査 | 入居申込書の記入、オーナー・管理会社への審査依頼。 |
| ⑤ 契約手続き | 重要事項説明・賃貸借契約書の締結・初期費用の受領。 |
| ⑥ 引越しサポート | 鍵の引渡し・入居後の初期トラブル対応。 |
賃貸仲介の最大の特徴は「件数の多さ」です。売買では月に1〜2件が標準的な成約数ですが、賃貸では繁忙期に月10〜20件を超える成約を出す営業マンもいます。常に複数の顧客対応が並行し、一日の業務は慌ただしく進みます。
もうひとつの特徴は「顧客のタイムプレッシャー」です。転職・転勤・進学——期限が迫った顧客対応が多いため、「また後で連絡します」では他社に決まってしまう。即断即応の文化が賃貸仲介の現場には根づいています。
売買仲介と賃貸仲介、何が違うのか
| 項目 | 売買仲介 | 賃貸仲介 |
|---|---|---|
| 1件の手数料 | 数十〜数百万円 | 数万円(賃料1ヵ月分) |
| 月の成約件数 | 1〜3件 | 繁忙期は10〜20件超 |
| 1件にかかる時間 | 数ヵ月〜1年 | 数日〜数週間 |
| 未経験の入りやすさ | ハードルが高い | 入りやすい |
| 精神的プレッシャー | 1件の重みが大きい | 件数の多さによる疲弊 |
| 繁閑の差 | 比較的均等 | 繁忙期と閑散期の差が激しい |
繁忙期という地獄と天国
賃貸仲介の世界で「繁忙期」と言えば、1月から3月を指します。転勤・進学・就職による引越しが集中し、問い合わせ件数が跳ね上がります。大手賃貸仲介店舗では、この時期だけで年間売上の3〜4割を稼ぐことも珍しくありません。
繁忙期の現場は文字通り「戦場」です。電話が鳴り止まず、来店予約が詰まり、複数の案内を一日にこなし、夜には契約書を作成し、翌朝にはまた新しい問い合わせが来ている——この時期に体力と精神力を使い果たし、繁忙期終了後に辞めていく人が毎年一定数います。
一方で繁忙期を乗り越えた営業マンにとっては「稼ぎ時」でもあります。歩合給が跳ね上がり、3ヵ月で年収の半分近くを稼ぐ人もいる。この「凝縮された稼ぎ」を目当てに、繁忙期前に賃貸仲介に転職する人もいるほどです。
営業マン視点
繁忙期のピーク時は、昼飯を食べる時間もない。お客さんを案内して戻ったら、また次の案内の電話が入っている。夜の10時まで契約書を作って、翌朝8時には来店予約が入っている。正直、体が壊れる手前まで働いた——これが多くの賃貸仲介経験者が語る繁忙期の実態です。しかし同時に、「あの時期に稼いだ感覚、あの件数をこなした達成感は、今でも自分の自信の根拠になっている」という声も同じくらい多い。繁忙期という地獄が、業界で生き残る「胆力」を作るのかもしれません。

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閑散期という試練
繁忙期が終わった4月以降、賃貸仲介は一気に閑散期に入ります。問い合わせが激減し、来店者も減り、日中の事務所がひっそりとする。「繁忙期より閑散期のほうがきつい」と表現する人もいます。
| 時期 | 市場の状況 | 営業マンの過ごし方 |
|---|---|---|
| 繁忙期(1〜3月) | 問い合わせ集中・毎日が戦場 | 件数をこなして稼ぐ・体力勝負 |
| 閑散期(4〜7月) | 問い合わせ激減・来店少 | スキルアップ・集客施策の仕込み |
| 中間期(8〜9月) | 学生の需要でやや回復 | 秋の需要に向けた準備 |
| 秋冬(10〜12月) | 法人需要・年度末の動き | 翌年の繁忙期に向けた顧客開拓 |
閑散期をどう過ごすか——自分のスキルアップに充てるか、新たな集客施策を仕込むか、腐るか——この過ごし方が翌年の繁忙期の結果に大きく影響します。
賃貸仲介でよくある「AD優先」問題
賃貸仲介の業界で長年指摘されてきた問題に、「顧客の希望より、手数料の高い物件を優先して案内する」という慣行があります。AD(広告費)制度がその背景にあります。
オーナーや管理会社からADとして賃料の2〜3ヵ月分の報酬が出る物件は、仲介会社にとって「積極的に紹介したい物件」になります。お客様の条件に完全に合致しているわけではないのに「こちらもいい物件ですよ」と案内件数に加えていく。意識的な悪意というよりも、「会社の方針」や「自然なインセンティブ」として染み付いている現場も多いです。
良心的な賃貸仲介営業マンは「顧客の希望に合う物件を最優先する」ことを自分の原則にしています。短期的にはADの高い物件ばかり勧める人の方が稼げることもありますが、長期的には口コミと紹介の差として表れます。
業界の裏側
賃貸仲介会社の店舗には、「推し物件リスト」が存在することがあります。ADが高い物件や、管理会社との関係強化のために積極的に紹介したい物件が並んでいる。スタッフはそのリストを意識しながら提案を行います。入居者から見えないところでこうした「優先順位」が存在していることを、業界人として理解しておくことが重要です。
賃貸仲介に向いている人
| 向いている人 | 向いていない人 |
|---|---|
| スピーディに動ける・即断即応が得意 | じっくり考えてから動きたい |
| 件数をこなすことに抵抗がない | 1件に深く関わりたい |
| 顧客の生活に寄り添う喜びを感じられる | 繁忙期の激務に体力的・精神的についていけない |
| 早期に成果を出して自信をつけたい | 閑散期の収入の波が不安 |
引越しを前に緊張した顔で来店したお客様が、「ここにします!」と笑顔になる瞬間——この手応えを好きになれる人は、賃貸仲介で長続きできます。売買と違い1件あたりの金額は小さくても、「この人が新しい生活を始める場所を見つけられた」という体験が毎回積み重なるのが、賃貸仲介の仕事の醍醐味です。
まとめ
賃貸仲介は、未経験から不動産業界に入る定番ルートです。件数が多く早期に成果を経験できる反面、繁忙期の激務・閑散期の収入減・AD優先の慣行など、独自の厳しさがあります。
「スピード感が好き」「早く成果を出したい」「顧客の生活に寄り添いたい」という人には、向いている仕事です。まずは繁忙期を1回乗り越えることを目標に、現場に飛び込んでみてください。

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